
萩に蝶の風たつとしもなきものを
こぼして急ぐいのちなりけり・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第二歌集『嘉木』(角川書店)に載るものである。
萩は秋の七草のひとつとして日本の古来の花として挙げられてきたものである。
九月中旬から咲きはじめ、小花を次々と咲きついで、盛りの頃には散り敷いた落花で地面が色に染まるのであった。
花の色は紅色、白色、紫色などさまざまある。
これも品種改良されているらしい。
同じ歌集に載る私の歌
妻を恃(たの)むこころ深まる齢(よはひ)にて白萩紅萩みだれ散るなり
というのがあるが、先に妻が亡くなってしまって「恃む」人も無くなった。
ところで、同じ「萩」を詠んでも、俳句と短歌では全然違った詠み方になるので、俳句の例句はたくさん挙げてきたので、今日は「短歌」の例を出来るだけ挙げてみる。
引用は「角川現代短歌集成」③自然詠から。
この真昼神われに助力するらしく庭の上の萩ひとりゆれうごく・・・・・・・・・・前川佐美雄
遠き萩それよりとほき空蝉の眸(まみ) 文学の余白と知れど・・・・・・・・・・塚本邦雄
萩の花紅く散り敷く庭の隅うずくまる子は長く黙して・・・・・・・・・・・・・・武川忠一
日の光朝より涼し白き花咲くべくなりし萩をたのしむ・・・・・・・・・・・・・・宮柊二
忘れねば空の夢ともいいおかん風のゆくえに萩は打ち伏す・・・・・・・・・・・・馬場あき子
曇天に触るる萩群ぴらぴらと天を掃くべく伸びあがりたり・・・・・・・・・・・・葛原妙子
谷戸のぼる風に一夜をたわみつつ萩しろたへの花も散るべし・・・・・・・・・・・小中英之
紅萩のこの世の秋のしだり枝のそよろと遊ぶ心見えたり・・・・・・・・・・・・・築地正子
ひと夏のわれの憂ひの眼のやりど萩ひとむらを焼きつくすなり・・・・・・・・・・・岡野弘彦
大寺の萩まんだらの夕まぐれ陰陽の水澄みてめぐれり・・・・・・・・・・・・・・辺見じゅん
萩ほろほろ薄紅のちりわかれ恋は畢竟はがれゆく箔・・・・・・・・・・・・・松平盟子
まなかひの萩むらさきに靡きつつ何にか遇はむつかのまの朝・・・・・・・・・篠弘
ひとしづく露のおもひと告げなむか萩むらの萩咲きそめにけり・・・・・・・・・山中智恵子
秋風のかたちを残す萩群のあな解体は激しかりしか・・・・・・・・・・・・長岡千尋
感情のうねりのさまに白萩の撓みやまざり風すぎてなほ・・・・・・・・・・・・佐藤輝子
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