
添水鳴る遠ざかり来てあきらかに・・・・・・・・・・・・・・・・清崎敏郎
「添水」(そうづ)はまたの名を「鹿おどし」シシオドシとも言う。
竹筒の中央に支点を作り、一方を削って水が溜まるようにした装置である。
水が溜まって重くなると竹が下がり水が流れ出て軽くなり、はねあがる。
すると、他端が急に下がり、石や金属を打って、コンと音を発する。
この音により山田を荒らす鳥獣を驚かして追い払う、という仕掛けである。
それから派生して、庭園などに設けて、流水を利用して、音を楽しむようにしたものである。
写真は、庭園にしつらえたものである。
添水というのは、字義からいうと「走り水」に添う、つまり「水路」のことから派生したものであろう。
水を引いて来て、その水を利用して「威し」の仕掛けを作る。
玄賓僧都が
山田守るそほづの身こそあはれなれ秋果てぬれば訪ふ人もなし
と詠んだのが本意と言われている。
九州では兎鼓とか左近太郎とか呼ばれ、山口では「さこんた」とも言い、また訛って「迫の太郎」とも言われていたという。
水による、しゃれた動物おどしだが、実用には、ほど遠い音だと言える。
こういう音の威しの他に、「添水唐臼」といって、杵を仕掛け、米や稗を搗くものがある。
「水車」の類と言えば判りやすいだろう。
以下、添水を詠んだ句を引いて終る。
ぎいと鳴る三つの添水の遅速かな・・・・・・・・河東碧梧桐
ばつたんこ水余さずに吐きにけり・・・・・・・・茨木和生
ばつたんこまた山の水受け始む・・・・・・・・朝妻力
添水かけて木々からびゆく響かな・・・・・・・・大須賀乙字
添水鳴ると気のつきしより添水鳴る・・・・・・・・西山誠
闇ふかく添水は己が音を待つ・・・・・・・・有働亨
京鹿の子咲くと添水のはずみけり・・・・・・・・佐野青陽人
闇中に声あるものは添水かな・・・・・・・・山中北渚
ふるさとや添水かけたる道の端・・・・・・・・吉田冬葉
あれ聞けと尼のかけたる添水かな・・・・・・・・前川舟居
詩仙堂花なき庭の添水かな・・・・・・・・貞永金市
失ひし時の重さに添水鳴る・・・・・・・・高橋謙次郎
手に掬ふ添水に音を生みし水・・・・・・・・大岳水一路
ばつたんこ法鼓のごとくこだませり・・・・・・・・山本洋子
次の音自づと待たるばつたんこ・・・・・・・・脇坂豊子
落柿舎の静けさとまる添水かな・・・・・・・・荒木千都江
短歌に詠まれるものを見つけるのが難しいのだが、こんな歌をひとつ見つけた。
竹叢に淡く日の射す寺の庭思はぬ方に添水の音す・・・・・・・・・・・・・・神作光一 『未来都市』02年より
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