
たちまちにあられ過ぎゆく風邪ごもり・・・・・・・・・・・・・・桂信子
「霰」あられには「雪あられ」と「氷あられ」の二つがあるという。一般には「雪あられ」のことを霰という。
「氷あられ」は雹の小型のもので、雪あられを芯にして、付着した水滴が凍りついたもので、積乱雲から降るので、夏なんかに農作物に穴をあけたりして大被害を与えたりする。
桂信子の句は「あられ」の吹き過ぎる寒々とした景色ながら、佳女が風邪で伏して籠っているという何となく色っぽい光景を連想させる。
霰を詠んだものとしては源実朝の『金槐集』の歌
武士(もののふ)の矢なみつくろふ籠手(こて)の上に霰たばしる那須の篠原
というのが、よく知られていて、ここでは「霰」が勇壮さを演出する小道具になっている。「玉霰」という表現もあるが、これは美称である。
いかめしき音や霰の桧木笠・・・・・・・・芭蕉
霰聞くやこの身はもとの古柏・・・・・・・・芭蕉
石山の石にたばしる霰かな・・・・・・・・芭蕉
いざ子ども走り歩かん玉霰・・・・・・・・芭蕉
傘さして女のはしる霰かな・・・・・・・・炭太祇
玉霰漂母が鍋をみだれうつ・・・・・・・・蕪村
玉あられ鍛冶が飛火にまじりけり・・・・・・・・暁台
匂ひなき冬木が原の夕あられ・・・・・・・・白雄
呼びかへす鮒売見えぬ霰かな・・・・・・・・凡兆
などの古句は、霰のいろいろの姿態を巧みに捉えている。
以下、明治以後の句を引いて終わる。
雲といふ雲奔りくるあられかな・・・・・・・・久保田万太郎
藁屑のほのぼのとして夕霰・・・・・・・・原石鼎
降り止んでひつそり並ぶ霰かな・・・・・・・・川端茅舎
灯火の色変りけり霰打つ・・・・・・・・内田百
玉霰雪ゆるやかに二三片・・・・・・・・中村汀女
人等来るうつくしき霰もちて来る・・・・・・・・山口青邨
この度は音のしてふる霰かな・・・・・・・高野素十
畦立ちの仏に霰たまりける・・・・・・・・水原秋桜子
霰やみし静けさに月さいてをり・・・・・・・・内藤吐天
霰打つ暗き海より獲れし蟹・・・・・・・・松本たかし
鉄鉢の中へも霰・・・・・・・・・・・・・・種田山頭火
玉霰人の恋聞く聞き流す・・・・・・・・清水基吉
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