
すべて黙殺芥子効かせておでん食ふ・・・・・・・・・・・・・・・佐野まもる
「おでん」は外でも家でも、冬の代表的な、あたたかい料理である。
『語源由来辞典』によると、「おでん」は「田楽(でんがく)」の「でん」に、接頭語の「お」をつけた女房詞、だという。
つまり、もともとは「煮込み田楽」の略称だった。
東京が本場で味付けも濃いが、関西では「関東煮」(かんとだき)と言われていたが、今では、どこでも「おでん」で通る。
もともとは焼き豆腐に味噌をつけたものだったというが、こんにゃくが使われ、菜飯田楽になり、やがて煮込みのこんにゃくとなって、
今日の煮込みおでんに変わったという。
焼き豆腐、こんにゃく、がんもどき、はんぺん、竹輪、すじ、だいこん、鶏卵などを煮込んだもので、芥子をつけて食べる。

屋台やおでん屋では、おでんに燗酒、茶めしなどを組み合わせて食べられる。今では晩秋の頃から「コンビニ」のカウンターでも、おでんがクツグツ煮えている。
私の家の近所に大きな蒟蒻製造会社があるが、そこは先年から、コンビニのセブンイレブンに、おでん材料を売り込んでいるらしい。
とにかく、いろいろの種や具があり、冬の季節には、温まる、庶民的なたべものである。
掲出の句は「すべて黙殺芥子効かせて」という態度が決然として潔いのでいただいた。
ぐずぐずと決断の悪いのは私好みではない。

以下、おでんを詠んだ句を引いて終わる。
戸の隙におでんの湯気の曲り消え・・・・・・・・高浜虚子
人情のほろびしおでん煮えにけり・・・・・・・・久保田万太郎
亭主健在おでんの酒のよいお燗・・・・・・・・富安風生
急流のごとき世なれどおでん酒・・・・・・・・百合山羽公
おでん食ふよ轟くガード頭の上・・・・・・・・篠原鳳作
おでん屋の月夜鴉の客ひとり・・・・・・・・龍岡晋
おでん酒うしろ大雪となりゐたり・・・・・・・・村山古郷
煮えたぎるおでん誤診にあらざるや・・・・・・・・森総彦
大根細く侘しきことやおでん鍋・・・・・・・・中江百合
おでんやは夜霧のなかにあるならひ・・・・・・・・久永雁水荘
おでん屋に同じ淋しさおなじ唄・・・・・・・・岡本眸
おでん鍋の湯気を小さく皿に頒つ・・・・・・・・手塚七木
おでん屋の背の灯のいまだ更け足らず・・・・・・・・・久米正雄
おでん屋に溜る払も師走かな・・・・・・・・日野草城
おでん酒酌むや肝胆相照らし・・・・・・・・山口誓子
雨だれにおでんのゆげのすぐもつれ・・・・・・・・阿波野青畝
例へばやおでんの芋に舌焼く愚・・・・・・・・安住敦
| ホーム |