
蟹の肉せせり啖(くら)へばあこがるる
生れし能登の冬潮の底・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・坪野哲久
ここに書かれる「蟹」とは一般名「ズワイガニ」地域によっては「マツバガニ」「越前カニ」などの名前で呼ばれるものである。
この頃は味覚あさりが頂点に達しており、関東では、いざ知らず、関西では、冬場は「カニ」「カニ」とうるさい程である。
私は蟹を食べるのが下手で、そのせいでもないが、カニ、カニと騒ぐほど蟹が好きでもない。この世の中で絶品の味とも思わない。
私のような人は他にもいるようで、私の知人も蟹は好物でもないと「のたまう」。
蟹に限らず、私には、もともと「グルメ」嗜好は無いのである。
坪野哲久については先日も採り上げたが、掲出のような歌が見つかったので出してみた。
哲久は歌にもある通り、能登の生まれであり、この歌は味覚の歌というよりは、故郷の能登の冬潮のことを思慕のように思い出している、という主旨の歌である。
昭和33年刊『北の人』所載。
哲久には故郷・能登を詠んだ歌がいくつかある。
能登できのしちりん一つ得しかばとうつくしき冬の火を点じたり
ひたおしに押す黒潮の底ごもる孤独おもいきその黒き藍(あお)
ふるさとを足蹴にしたる少年の無頼はやまず六十になる
このくにのことばをにくみまたあいすおぼろめかしくこのしめれるを
冷えびえと目覚めしときの雪の香よ浄なるものは天よりきたる

↑ 絶えず故郷への想いを詠った当町(高浜生まれ)出身の歌人・坪野哲久と彼を支えた妻山田あきの歌碑。
この歌碑には、ここに掲出した歌が彫られている。 つまり
蟹の肉せせりくらえばあこがるる生まれし能登の冬潮の底・・・・・・・・・・・哲久
歌集「北の人」より
きみと見るこの夜の秋の天の川いのちのたけをさらにふかめゆく・・・・・・・・・・あき
歌集「紺」より
坪野哲久については、← こんな記事がある。
この記事のリンクから彼ゆかりの場所を辿ることができる。アクセスされよ。

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