清水へ祇園をよぎる桜月夜
こよひ逢ふ人みなうつくしき・・・・・・・・・・・・・・与謝野晶子
この歌は晶子の歌の中でも人口に膾炙した有名な歌である。
京都の地を知っている人ならば、清水、祇園という地名が持つ「喚起力」というものを高く評価する筈である。
そこへ「桜月夜」である。舞台設定は益々的確である。
その上に「こよひ逢ふ人みなうつくしき」と追い討ちをかける。
何とも見事な歌作りであろうか。
経はにがし春のゆふべを奥の院の二十五菩薩歌うけたまへ
絵日傘をかなたの岸の草になげわたる小川よ春の水ぬるき
春三月柱(ぢ)おかぬ琴に音たてぬふれしそぞろの宵の乱れ髪
ひとつ篋にひひなをさめて蓋とぢて何となき息桃にはばかる
わがいだくおもかげ君はそこに見む春のゆふべの黄雲のちぎれ
夕ぐれを花にかくるる小狐のにこ毛にひびく北嵯峨の鐘
下京や紅屋が門をくぐりたる男かはゆし春の夜の月
春みじかし何に不滅の命ぞとちからある乳(ち)を手にさぐらせぬ
春ゆふべそぼふる雨の大原や花に狐の睡(ぬ)る寂光院
川ひとすぢ菜たね十里の宵月夜母がうまれし国美くしむ
春の雨高野の山におん児(ちご)の得度の日かや鐘おほく鳴る
わが肩に春の世界のもの一つくづれ来しやと御手を思ひし
羽じろの桜の童子ねぶりたり春の御国のあけぼののさま
住の江や和泉の街の七まちの鍛冶の音きく菜の花の路
ゆく春や高燈台のむらさきの灯(ほ)かげの海に細き雨ふる
木の間なる染井吉野の白ほどのはかなき命抱く春かな
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目につくままに、春にまつわる晶子の歌をアトランダムに抽出してみた。まだまだ、いくらでも出てくる。
やはり与謝野晶子と言えば、歌の天才である。余計な経歴など不要である。
ゆっくりと、鑑賞してもらいたい。
与謝野晶子についてはWikipediaの記事に詳しい。
↑ 与謝野晶子歌碑、京都市東山区永観堂内
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