
木犀の香や年々のきのふけふ・・・・・・・・・・・・・・・・西島麦南
金木犀の爽やかな香りが漂う季節になった。例年、東京オリンピックを記念した「体育の日」前後というところである。日本は広いから地域によって異なるだろう。
関西では今頃である。私の父は10月14日に亡くなったが、金木犀の強く薫る頃であった。
写真は花を接写で撮ったもので、花は十字の形をしている。地面に散り敷いた時は一面金色で見事なものである。
掲出の句は、「年々のきのふけふ」と詠んで、歳月の無慈悲な推移を、情緒ふかく句にまとめた。

キンモクセイは雌雄異株だが、日本には雄株しか入って来なかったと言われている。
キンモクセイは中国南部の桂林地方が原産地。中国語では「桂」は木犀のことを指し、「桂林」という地名も、木犀の木がたくさんあることに由来する。
有名な観光地である漓江下りの基地であり、現地に行ってみると、そのことがよく判る。
中国には「月には木犀の大木が茂っている」という伝説があるそうである。
夢見心地にさせてくれる花の香りが、地上のものとも思えなかったのであろう。
花言葉は「謙遜」。中国の酒に「桂花陳酒」というのがあり、木犀の香りのついた名物の酒である。

写真③は和知小学校にあるキンモクセイの巨木である。キンモクセイの巨木では三嶋大社のものが有名で樹齢1200年と言い、天然記念物に指定されている。
キンモクセイは学名を Osmanthus fragrans var. aurantiacus というが、一番はじめのOsmanthus というのはモクセイ属というものだが、
このオスマンサスはギリシア語の「osme(香り)プラス anthos(花)」というのが語源。
因みに学名には末尾にMAKINO とついているものもあるが、それは牧野富太郎博士の命名か整理による故だろう。
ついでに言えば fragrans=芳香のある、 aurantiacus=橙黄色の、の意味である。
木犀には銀木犀というのもある。私の家の旧宅の庭にあったが、今の家に引っ越す時に庭に入り切らずに植木屋にもらわれていった。
木犀を詠んだ句を引いて終りにする。
木犀や月明かに匂ひけり・・・・・・・・山口青邨
浴後また木犀の香を浴びにけり・・・・・・・・相生垣瓜人
沈黙は金なり金木犀の金・・・・・・・・有馬朗人
夜露とも木犀の香の行方とも・・・・・・・・中村汀女
木犀の香がしてひとの死ぬる際・・・・・・・・小寺正三
金木犀手鞠全円子へ弾む・・・・・・・・野沢節子
木犀が髪にこぼれてゐて知らず・・・・・・・・神戸はぎ
富士に雪来にけり銀木犀匂ふ・・・・・・・・伊東余志子
身の饐えるまで木犀の香に遊ぶ・・・・・・・・鷹羽狩行
金木犀の香の中の一昇天者・・・・・・・・平井照敏
妻あらずとおもふ木犀にほひけり・・・・・・・・森澄雄
犬の睾丸ぶらぶらつやつやと金木犀・・・・・・・・金子兜太
木犀や同棲二年目の畳・・・・・・・・高柳克弘
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