
ひひらぎの秘かにこぼす白花は
鋭き鋸歯(きょし)の蔭なるゆふべ・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第二歌集『嘉木』(角川書店)に載るものである。
柊(ひいらぎ)は、悪魔を祓うとかいう言い伝えで、家の玄関脇に植えられていたりする地味な木だが、鋭いノコギリ状の葉を持っている。
この木は初冬に、その鋸歯の葉の蔭に小さな白花をつける。季節が寒い冬であり、しかも皆いそがしい12月だから、この花に気づく人も少ないだろう。
今この花の花盛りで11月下旬から咲きはじめた。、傍を通ると、すずやかな佳い香りがする。人によってはスズランに似た香りだという。花言葉は「用心」「歓迎」

結構かわいらしい清楚な花である。図鑑を見るとモクセイ科の常緑小高木と書いてある。
柊という名前の由来は疼(ひいらぐ)で「痛む」という意味である。
疒(やまいだれ)に旁(つくり)に冬と書く。
熟語に「疼痛」(とうつう)があるのをご存じだろう。
葉の棘に触れると疼痛を起こすことから言う。「いら」とは「苛」で棘を意味する。
本来、この木は関西以西の山地に自生する暖地性の木らしい。
この頃に咲く花としては「枇杷」の花などもある。さざんか、茶の花などは、よく知られているものである。この頃に咲く花は初夏の頃に実をつける習性がある。
年が代って節分になると、この木の小枝に鰯の頭を刺して魔除けの縁起かつぎをする木として、一般に知られているが、この頃では家が小さくなって、この木が植えられる家が見られなくなって、この風習も廃れる一方であろう。
以下、この花を詠んだ句を引いて終る。
柊の花一本の香かな・・・・・・・・・・・・・高野素十
柊の花と思へど夕まぐれ・・・・・・・・・・・・・富安風生
柊の花多ければ喜びぬ・・・・・・・・・・・・・中村草田男
柊の花のともしき深みどり・・・・・・・・・・・・・松本たかし
粥すくふ匙の眩しく柊咲く・・・・・・・・・・・・・長谷川かな女
花柊母の伝言短くて・・・・・・・・・・・・・小西敬次郎
柊の香がする夜昼田がねむり・・・・・・・・・・・・・森澄雄
柊の花を見し日や眼帯す・・・・・・・・・・・・・細見綾子
父とありし日の短さよ花柊・・・・・・・・・・・・・野沢節子
柊の花音もなく海は夜に・・・・・・・・・・・・・村田脩
花柊袖通すものひやひやと・・・・・・・・・・・・・永方裕子
弥陀の扉を花柊の香へひらく・・・・・・・・・・・・・吉野義子
花柊一つぶ髪に真野間来て・・・・・・・・・・・・・中村明子
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