
春愁やくらりと海月(くらげ)くつがへる・・・・・・・・・・・・加藤楸邨
明るく、浮き立つ春ではあるが、ふっと哀愁を覚えることがある。はっきりした「憂鬱」ではなく、あてどない物思いのような気持ちを「春愁」という。
春ゆえに心をかすめる淡い、かなしい、孤独な、物思いである。
春愁を写真にしようとすると、難しい。
だから「クラゲ」の写真を出しておいた。
俳句には「春愁」を詠んだものがたくさんある。少し引いておきたい。
春愁のまぼろしにたつ仏かな・・・・・・・・飯田蛇笏
春愁や派手いとへども枕房・・・・・・・・飯田蛇笏
白雲を出て春愁もなかりけり・・・・・・・・中川宋淵
いつかまたポケットに手を春うれひ・・・・・・・・久保田万太郎
春愁のかぎりを躑躅燃えにけり・・・・・・・・水原秋桜子
髪ばさと垂れて春愁の額としぬ・・・・・・・・三橋鷹女
春愁に堪ふる面輪に灯りけり・・・・・・・・日野草城
春愁の一端に火が燃えてゐる・・・・・・・・野見山朱鳥
春愁もなし梳く髪のみじかければ・・・・・・・・桂信子
春愁やせんべいを歯にあててゐて・・・・・・・・大野林火
春愁のいとまなければ無きごとし・・・・・・・・皆吉爽雨
ハンカチに鏝(こて)あてて春愁ひかな・・・・・・・・安住敦
山椒魚の春愁の顔見とどむる・・・・・・・・後藤秋邑
春愁やかなめはづれし舞扇・・・・・・・・鷲谷七菜子
春愁や夫あるうちは死ぬまじく・・・・・・・・末広千枝
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