
春さればしだり柳のとををにも
妹(いも)は心に乗りにけるかも・・・・・・・・・・・・・柿本人麻呂
この歌の意味は、春になると、しだれ柳がたわたわとしなう。そのように私の心もしなう。そのしなった私の心の上に、恋人よ、おまえは乗ってしまった。
「春されば」のサルは「移る」の意で、春が来ると、の意味。
「とをを」は「撓(とをを)」で、タワワの母音が変化した形、たわみしなうさま。
「妹は心に乗りにけるかも」という、現代でも新鮮な具象的映像による表現は、当時の古代人にも大変好まれたようで、『万葉集』には同工異曲の歌が散見される。
『万葉集』巻十所載。
『柿本人麻呂歌集』には、人麻呂自身の作と、当時民間で歌われた民謡を人麻呂が採集記録したものとが含まれていると考えられるが、広義には記録者としての人麻呂の作と考えてよいだろう、と言われている。
柿本人麻呂の忌日は陰暦3月18日とされている。新暦だが、その日に因んで載せる。
人麻呂は『万葉集』の代表歌人、歌聖と言われた。
彼の伝記はほとんど不明で、生没年も判らないが、『正徹物語』の説によって、この日を忌日とする。
3月18日は、小野小町や和泉式部の忌日でもあり、この日は民俗的に大切な日であったらしい。
人麻呂忌を詠った句を引いて終りにしたい。
土佐が画の人丸兀(は)げし忌日かな・・・・・・・・正岡子規
山の辺の赤人が好き人丸忌・・・・・・・・高浜虚子
人丸忌わが俳諧をもて修す・・・・・・・・富安風生
二三人薄月の夜や人丸忌・・・・・・・・飯田蛇笏
いはみのくにいまも遠しや人丸忌・・・・・・・・山口青邨
人麿忌野に立つ我もかぎろふか・・・・・・・・大庭雄三
人麿とつたへし像をまつりけり・・・・・・・・水原秋桜子
人丸忌歌を詠むにはあらねども・・・・・・・・大橋越央子
顔知らぬ人々寄りぬ人麿忌・・・・・・・・阿部みどり女
山国の川美しや人麿忌・・・・・・・・西本一都
歌やめて太りし妻や人麿忌・・・・・・・・肥田埜勝美
人麻呂忌砂にひろごる波の末・・・・・・・・長尾俊彦
人麿忌旅の枕を返しけり・・・・・・・・細貝幸次郎
謎の歌石見に残る人麻呂忌・・・・・・・・水津八重子
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