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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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村島典子の歌「一夏」32首・・・・・・・・・木村草弥
晶_NEW

──村島典子の歌──(28)

     村島典子の歌「一夏」32首・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
                ・・・・・「晶」No.96号2016/12所載・・・・・・・

  こんなところに画鋲ありしか物干しのハンガーの上小鳥のやうに
  飛び跳ねてそののち行方知れずなりし画鋲なりけり数日探す
  ちひさなる桃も袋を被りゐてもう笑はずにはをれないわたし
  桃こそはわが娘なれ花も実もむすめのやうに微笑むやうに
  人熟れず時間のみ熟れてゆく夏の天空に積むおほき白雲
  ああつひに褥瘡出でぬわが犬の左右の腿の痩せさらぼへて
  骨みえて横たはりゐるわが犬のはや半分の嵩となりたり
  このわれを浄化せむとし褥瘡の身にひたすらに見つむる犬は
                  七月二十八日夕刻死す、十七歳五ケ月であつた。
  五分ほど眼をはなしたるその隙に息ひきとりぬ独り逝かせたり
  保冷剤と氷ありたけ抱かせて一夜留めつ、死にたり 三太
  ああ座敷まなかにからだ寄り添ひて七月の夜を犬と眠りき
  もの言へば身体が哭きぬ喪ひて犬はかへらずこれの世にゐず
  勾玉の形して眠る犬のうへ狭庭のちひさき花を散らしつ
  みづうみが遠景に見ゆ山中の霊園に犬を焼きに来にけり
  行きゆけど行き着かず苑に迷ひたりペット埋葬所の焼却炉どこ
  右にんげん左ペットと記されし着きてしまひぬ葬り処に
  まつぶさにわれは見にけり三日間水絶ちしわが犬の命終
  耳をたて何を聴かむとせしならむ死を迎へたるその隙すらも
  十七年生きぬきし犬かなしみは胸抉るがに間歇に来つ
  どれほどにわが日月の降りつもりふかぶかとありし犬との暮し
  けふ犬のベッド上掛け捨てにけり大型ゴミ回収車留守の間に去る
  洗ひてもおまへの匂ひは沁みつきて毛布三枚上掛け二枚
  「死んだおまへの残したものは汚れた首輪と二本の乳歯ほかには何も残さなかつた」
  廊下にてゴキブリ転がり死にてをり薄明のなか死はゆるぎなし
  犬の死とゴキブリの死はわたしには同じではない同じではないが
  こんなにもつくつくぼふしが懐かしくげんきか元気げんきか元気
  餡パンを犬に供へておさがりをわれはいただくお盆中日
  エプロンの紐を引つ張りほどきたる仔犬のころが不意に衝きくる
  忘れ草くわんざう咲きて川原に夏一点の朱が点りぬ
  油蝉ころがる屍たまねぎの皮もて裹みぬ荒草のうへ
  ちいちいとわれを呼ぶ虫草むらに潜みてこの世もあの世もあらず
  花となる魂もあらばや夕さりてどんぐり山に萩は咲きそむ
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おなじみの村島さんの一連である。
今回は長年連れ添って来られた愛犬「三太」の死を詠まれた。
はじめの五首だけが犬の歌ではないが、それらの歌が後につづく犬の一連の導入部として秀逸である。
「一夏」─いちげ、という題名が村島さんのこの夏を簡潔に表しているようである。 玩味してお読みいただきたい。
ご恵贈に感謝します。 ご壮健にて、ご越年を。




  

      
ふるさとは遠きにありて思ふもの/そして悲しくうたふもの/うらぶれて異土の乞食となるとても・・・・・・室生犀星
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   小景異情 その二・・・・・・・・・・・・・・・・室生犀星

     ふるさとは遠きにありて思ふもの

     そして悲しくうたふもの

     よしや

     うらぶれて異土の乞食(かたゐ)となるとても

     帰るところにあるまじや

     ひとり都のゆふぐれに

     ふるさとおもひ涙ぐむ

     そのこころもて

     遠きみやこにかへらばや

     遠きみやこにかへらばや

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この有名な詩は『抒情小曲集』の巻頭に載るもので、年譜によると

<二十歳頃より二十四歳位までの作にして、就中「小景異情」最も古く・・・・・>と書かれている極く初期の作品である。初出は『朱欒』大正2年2月、となっている。

    故郷にて冬を送る・・・・・・・・・・・・・室生犀星

     ある日とうどう冬が来た
     たしかに来た
     鳴りひびいて
     海鳴りはひる間も空をあるいてゐた
     自分はからだに力を感じた
     息をこらして
     あらしや
     あらしの力や
     自分の生命にみち亘つてゆく
     あらい動乱を感じてゐた
     木は根をくみ合せた
     おちばは空に舞ふた
     冬の意識はしんとした一時(とき)にも現はれた
     自分は目をあげて
     悲しさうな街区を眺めてゐた
     磧には一面に水が鋭どく走つてゐた

『愛の詩集』所載。初出は『詩歌』大正4年1月。

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という詩もある。
最初に掲げた詩は有名なもので、特に、はじめの短歌のリズムの二行だけを取り出して引用されることもある。
私の持っている『定本・室生犀星全詩集』(昭和53年・冬樹社刊)は全三巻で、一冊の厚さは5センチもあるものである。
近代詩の巨人として、その後の現代詩に繋がる偉業を成し遂げた。
むつかしい語句もないので、年末の忙しい時期だが、ゆっくり鑑賞してもらいたい。





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