
一塊の軒の雪より長つらら・・・・・・・・・・・・・・・高野素十
目下は「大寒」の期間中であり、一年中で一番寒い時期である。
京都も連日、日中の最高気温も4度、5度という冷たさで、冷蔵庫、冷凍庫の中にいるような日がつづく。
今日は、そんな寒さに因んで、「氷」「氷柱つらら」「氷湖」などについて書きたい。
われわれ暖地に住むものは、雪が何メートルも積もる映像を見ては、「こんなところに住んでみたい」などと簡単に言うが、
そんな豪雪地帯に毎日居住する人にとっては、雪との格闘の毎日であり、深刻な「気が休まらない」「鬱陶しい」ことなのである。
話は飛ぶが、台湾の人は亜熱帯であるから、平生に雪は知らないわけで、台湾からの観光客には北海道の冬は人気があるらしい。
というのは、先に私が書いたことと同じ心理状態ということになる。地元の悩みも知らずに、珍しいもの見たさ、ということである。
櫓の声波を打つて腸(はらわた)氷る夜や涙・・・・・・・・松尾芭蕉
氷上や雲茜して暮れまどふ・・・・・・・・原石鼎
蝶墜ちて大音響の結氷期・・・・・・・・富沢赤黄男
これらの句は「凍てる」風物を単に写生するのではなく、鋭く「心象」に迫るものがある。
三番目の赤黄男の句は「前衛」俳句と呼ばれるものである。
以下、「つらら」を詠んだ句を引いて終る。
遠き家の氷柱落ちたる光かな・・・・・・・・高浜年尾
楯をなす大き氷柱も飛騨山家・・・・・・・・鈴鹿野風呂
絶壁につららは淵の色をなす・・・・・・・・松本たかし
夕焼けてなほそだつなる氷柱かな・・・・・・・・中村汀女
月光のつらら折り持ち生き延びる・・・・・・・・西東三鬼
胃が痛むきりきり垂れて崖の氷柱・・・・・・・・秋元不死男
みちのくの星入り氷柱吾に呉れよ・・・・・・・・鷹羽狩行
嫁ぐ日来て涙もろきは母氷柱・・・・・・・・・中尾寿美子
ロシア見ゆ洋酒につらら折り入れて・・・・・・・・平井さち子
みちのくの町はいぶせき氷柱かな・・・・・・・・山口青邨
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