
妻を恃(たの)むこころ深まる齢(よはひ)にて
白萩紅萩みだれ散るなり・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第二歌集『嘉木』(角川書店)に載せたもので「牧神の午後」という項目の中の一つである。自選50首にも入っているのでWeb上でもご覧いただける。
萩にもいろいろの色があり、栽培種として品種改良されている。
昔は、一番美しいのは「みやぎのはぎ」ということで、紅紫色か白で、庭などに植えられた。

秋の七草の筆頭になる花で、字で書くと草かんむりに秋と書くように、秋を代表する花とされた。
古来、芭蕉の句に
一家に遊女も寝たり萩と月
しをらしき名や小松吹く萩すすき
白露もこぼさぬ萩のうねりかな
などの名句もあり、また曽良の句の
行き行きてたふれ伏すとも萩の原
なども有名である。
私の歌は、齢を取ってくると妻を恃む気持ちが、だんだんと強くなってくる心情を詠んでいる。若い時の愛情とは、また変った心境が生れるからである。
また、妻の病気が進行して介護の日々が殆どとなり、支えてやらなければならないという気持ちと、裏腹になったような微妙な気分をも含んでいる。
私たちは、そんな風にして、お互いを支えあって生きてきたのである。
妻亡き今となっては、懐かしい追憶の歌となってしまった。
今は、私は一人で生きてゆかなければならない。
同じ歌集に
萩に蝶の風たつとしもなきものをこぼして急ぐいのちなりけり・・・・・・・・・・木村草弥
という歌も、すぐ後に載っている。
蝶が来るだけで、はらはらと花を散らす萩の姿を見て、そこに、はかない「いのち」を見たのである。
以下、歳時記から萩の句を引いて終わりにしたい。
三日月やこの頃萩の咲きこぼれ・・・・・・・・河東碧梧桐
日の暮は鶏とあそびつ萩の花・・・・・・・・福井艸公
萩の花何か急かるる何ならむ・・・・・・・・水原秋桜子
低く垂れその上に垂れ萩の花・・・・・・・・高野素十
もつれ沿ふ萩の心をたづねけり・・・・・・・・阿波野青畝
雨粒のひとつひとつが萩こぼす・・・・・・・・山口青邨
せはしなき萩の雫となりにけり・・・・・・・・五十嵐播水
ある日ひとり萩括ることしてをりぬ・・・・・・・・安住敦
手に負へぬ萩の乱れとなりしかな・・・・・・・・安住敦
萩の風一文字せせり総立ちに・・・・・・・・田村木国
降り止めばすぐ美しき萩の風・・・・・・・・深川正一郎
みごもりしか萩むらさわぎさわぐ中・・・・・・・・渡部ゆき子
白萩のやさしき影を踏みゆけり・・・・・・・・山内きま女
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