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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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武藤ゆかり歌集『異界伝説』・・・木村草弥
武藤_NEW

──新・読書ノート──

     武藤ゆかり歌集『異界伝説』・・・・・・・・・・・・・木村草弥
                 ・・・・・・・南天工房2010/09/23刊・・・・・・・

敬愛する武藤ゆかり氏から標記の本が贈られてきた。
武藤氏は多作である。この本も、2003年から2006年にかけて作られた765首のもので、新作と入れ替えたりなさった、という。
「あとがき」に、こう書かれている。
<・・・・・今回初の試みとして、恐怖を題材にした一連を発表する。
 ・・・・・私はこれらの歌の多くを、ふるさとの山間の村のさまざまな事象から拾ってきた。そこは愛すべき馴染み深い土地でありながら、まるで未知の世界、別の次元のように感じられる。
 日々の営みや人の生死もどこか物語めいていて、誰か昔の人の魂が異界からふっと憑依してきて私に歌を詠ませ、伝説を語らせるのである。>

ここに書かれる「恐怖を題材した一連」というのは、どれか、探してみた。
本書は第一部と第二部に分かれた章立てになっているが、第二部に載る「悪夢の通りゃんせ」40首が、それらしい。引いてみよう。

   ■お父さん学校怖い理科室の奥に開かない小部屋あること
   ■お父さん残業怖い節電の闇の向こうで再起動する
   ■お父さんとんねる怖い出た時に手形の残る助手席の窓
   ■お父さん病院怖い目撃談よくある事と笑う看護師
   ■お父さん鳥さん怖いぽたぽたと落ちて死ぬとこ一度も見ない
   ■お父さん旧家は怖い鉤の手に廊下をゆけば錆びた錠前
   ■お父さん黄昏怖い影法師少し遅れて手足が動く
   ■お父さん母さん怖い鏡台に誰の爪だか大量にある
   ■お父さん津波は怖い引き潮においでおいでをしている親子

多くを引きすぎたかも知れないが何分40首もあるので仕方がない。
ご覧のように歌の初句が、みな「お父さん」で始まっている。
この一連に関連して、先に引いた「あとがき」の続きには <・・・・・空想が肥大して異常なまでに私を刺激し、頭の中で一首一首に幻影が付与され、夜などは得体の知れないものが迫る予感に、布団から手足を出したままでは眠ることができなかった。今やっと解放された安堵感がある。・・・・・>と書かれている。
何を、大げさな、と思うが、作者にとっては、そういう思いがした、ということだろう。

何ぶん歌の数が多すぎて印象が雑駁になって不十分な鑑賞になるのをお許し願いたい。
あとは私の目に止まった歌を列挙したい。

   ■木星のありようもまた揺れている固体液体気体霊体
   ■あれがあの天狗の面の猿田彦はじめ細波やがては津波
   ■ひいよろと心任せに吹き鳴らし笛になりゆく田楽法師
   ■神猿に護摩餅いくつ炙らせてそのひび割れをいかに占う
   ■日本の家族写真の真ん中は普通は子供あめりかは妻
   ■ふところに氷育てて悲しかり白昼魔人街をさまよう
   ■仕事していないと死んでしまう人深海鮫とどこか似ている
   ■自らも粘土遊びをし始めて被膜の外へ逃げゆくところ
   ■何事もなかったように乳根を垂らして古き御葉付公孫樹
   ■道ゆけば見上げるほどの石仏時空の辻はここかと思う
   ■綿帽子かつらの上に膨らみぬうつむきがちの水平移動
   ■熱帯の珊瑚の海のねむりぶかあの生もこの生も僥倖
   ■のぎへんの私も仲間先の世は虫の褥を共に編みつつ
   ■悲しみの微弱電流に打たれけり想像もまた供養なりけり
   ■山鳴りは未明の空に一度きり響いて消える遠い空耳
   ■印度人笛吹き踊る絵葉書の中に未生の我もいるなり
   ■草陰に呼び掛けながら家出猫探す私を誰か探して
   ■へその緒を握り締めたる風体に犬と我がゆく山野行かな
   ■かりゆがの時代の末に居合わせて先の楽しみ増えた心地す
   ■岩肌のうしろ臨海副都心どこかあの世の遊戯庭園
   ■本当に怖い話は僕たちが離魂病だということなんです
   ■女もすなる花冠を編まむとて若草踏みてくる人もがな
   ■さみしさを二度と言うまい骨盤の壁の中なる永久凍土
   ■亡き人の長編叙事詩書き出しは星降る里の涌井のほとり
   ■自らの体に傷を付けながら海を砕いて進む船あり
   ■雨後の水たばしる沢はさんさーらさんさーらとぞ流れゆくなる
   ■漂えるこの世の悪しき想念を変換せんと鳴く雨蛙
   ■静寂も音のひとつと思うまで森に佇む一頭の馬
   ■いっぽんの花揺れて万の花揺れて私も風の墓標となりぬ
   ■羊より綿より軽く縁側にわたくしだけが見上げる花火
   ■いつか見た逆さま王女絵の中に米粒よりも小さかりけり
   ■草の葉に初めて降りた白露の君の冷たき額を思う
   ■おおぞらの記憶容量限りなし雲は声紋さよならまりりん
   ■二人して築きたかった城塞の未完の庭に射す月明かり
   ■幸せはひまわり動物病院へ小さな犬を連れてくる人
   ■目立たねどげんのしょうこの実のかたち人智を超えた業と思えり

歌の数が多いので「小見出し」になっている歌を引いてみた。そこに作者の好みが籠っていると思ったからである。
しかし、いずれにしても歌の数が多いので、極めて雑駁な抽出になったことをお許し願いたい。
題名になった「異界伝説」という言葉に秘めた作者の琴線に触れ得たかどうか。
武藤さんは写真家でもあるので、カバー装の写真が題名と調和して素晴らしい。
この辺で、不十分ながら終わります。ご恵贈ありがとうございました。         (完)





指先をいつもより濃きくれなゐに染めてひとりの午後を楽しむ・・・鈴木むつみ
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     指先をいつもより濃きくれなゐに
            染めてひとりの午後を楽しむ・・・・・・・・・・・・鈴木むつみ


この歌は角川書店・月刊誌「短歌」2013年2月号に載る「指」という題詠に採用されたものの一つである。

一人暮らしの女の人の心情を、よく表現している。
今しも春めいてきて、心も浮き立つ季節の到来と言える。
掲出歌とは違う趣の歌群だが、いくつか引いて終わりたい。

   節高き指は女の勲章と自ら思ひ主婦の座守る・・・・・・・・西村麗子

   幼子の指絵のために取り置かむ冬の朝の硝子の曇り・・・・・・・梶田有紀子

   さ、よ、う、な、ら、指の先から逃がしつつひとは手を振るまた会うために・・・・・・木原ねこ

   指先を想像させる優美さよ腕を失くしたミロのビーナス・・・・・・波多野浩子

   常務派と専務派とあり遊戯にはあらぬこの指とまれの誘ひ・・・・・・山崎公俊

   指貫をゆつくり外し夕食のメニュー考へてゐるらし妻は・・・・・・・・加藤英治

   うろこ雲遠く遠くへ押しやりて秋風のなか指笛を吹く・・・・・・・・・・木立徹

   絵本読む幼の指のつと止まるつかえし文字は一つとばせよ・・・・・・・・中村佐世子




   
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