FC2ブログ
K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
202006<<12345678910111213141516171819202122232425262728293031>>202008
藤原光顕の歌「捨てた本20首」・・・木村草弥
たかまる_NEW

──藤原光顕の歌──(47)

      藤原光顕の歌「捨てた本20首」・・・・・・・・・・・・木村草弥
              ・・・・・・「たかまる」No.118/2020.7掲載・・・・・・・・
       

           捨てた本     藤原光顕

   最後まで聞き役でおればよかったひとことが尾をひいてうろつく
   三日探して出てこぬ本は捨てたとする捨てた本ばかり探すこの頃
   ランタナの五本が庭を占拠してたしかに過ぎた五年あれから
   グーグルで呼び出すわが家は正面をわずかに逸れて玄関がある
   思い出したのにはわけがあったはず中原中也引っ張り出してくる
   「あの人はワシもわからん」賛辞を書きながらケロッと言った柳原一郎
   怪我のことか年齢のことか杖なしで歩く頑張り褒められている
   褪色の付箋びっしりはさまれて出てきた一書 どう読んだのか
   『宇宙の「果て」に何があるのか』三年経ってまた出発する
   カタカナばかりの買い物メモ財布に入れてイズミヤへ行く
   何兆年先地球みたいな時空があって何兆年先を想像している生物がいて
   新開地通りの北の川べりの夕焼けのバラックの群れ 五十年前
   あの三畳だってけっこうドラマチックだった東川崎町のアパート
   あと二年でガラケー終わる通知がくる二年ならたぶんこっちも終わる
   一円貨を九つちゃんと並べていく ちゃんとじいさんらしくゆっくり
   茶が三毛に変わったようだが三匹が今日もわが庭の見回りに来る
   チラッと視てゆうゆうと庭を過ぎる猫「OK、今日も異常なさそう」
   常識に沿って探せばたいていのものは出てくる 大丈夫まだ
   庭が視える 道路から声が聞こえる そんな恩寵へ今朝も覚める
   こんな仕切りの中にも人は住んでいて白々と初夏の日差しを反す
--------------------------------------------------------------------------------
コロナウイルス跳梁騒ぎの自粛の中でも藤原氏は、お元気のようだ。
熱心な投稿者だった「二葉由美子」さんが亡くなった、と巻末に特集で書かれている。
人の世には「別れ」がつきものである。  合掌。
向暑の折から御身ご自愛ください。






           
おのづから陥穽ふかく来しならむ蟻地獄なる翳ふかき砂・・・木村草弥
arijigoku-su13蟻地獄

    おのづから陥穽(かんせい)ふかく来しならむ
        蟻地獄なる翳(かげ)ふかき砂・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥


この歌は私の第二歌集『嘉木』(角川書店)に載るものである。

掲出の写真は見難いかも知れないが、画面に四つほど「蟻地獄」のすり鉢状の凹みが見えると思う。

arinotiwosutta2蟻地獄幼虫

写真②は、この蟻地獄の持ち主である「ウスバカゲロウ」の幼虫(左側)と、右側は食べた「獲物」の殻である。というのは捕らえた虫の体液を吸い取るのが、この幼虫の食事の仕方なのである。用済みの虫の殻は顎の力で巣の外に放り飛ばしてしまう。写真は、もちろん判りやすいように巣からつまみ出して並べてみたものである。

この蟻地獄は寺院や神社などの雨の掛からない軒下(縁側の下など最適)の砂地に穴を掘る。
この虫の生態については内外で詳しく観察している研究者が居て、ネット上でもエッセイなどが載っている。因みに英語ではAnt-lion という。
そのうちの三輪茂雄氏のエッセイMedical Pharmacy.Vol.20.May.114-115(1986)をもとに少し書いてみよう。

蟻地獄の陣地構築はどうするのか。
彼は先ず大きな輪を描きながら後ずさりしてゆく。その輪の直径は次第に小さくなり、最後に中心に潜り込んで完成する。陣地の斜面の角度は、いわゆる「安息角」。もし蟻などの獲物が斜面に足を突っ込むと、安定が崩れて地獄の底へ転落する。湿度の変化によって「安息角」が変化するので、ときどき修正することも忘れない。
頭にあるハサミは、よく見るとスリバチの底にぐっと広げ、斜面の下端を器用に支えている。だから、このハサミのセンサーで斜面に起る微妙な変化を感知できるのである。
粒ぞろいの砂がある場所ならともかく、一見、とても陣地が作れそうにもない荒地でも、整地作業する。つまり粒ぞろいに整地するのだ。アメリカの動物学の雑誌に、この陣地構築に関する論文が出た。(An1m.Behav.30巻、P651.1982)「アントライオン幼虫の陣地構築に関するバイオフィジックス」。
この整地作業の際に彼は砂の粒を揃えるのに「風力分級」という作業をする。「風力分級」というがニュートン域と層流域の中間域が丁度よいのである。

三輪氏は「<風力分級の極意をアリジゴクに学ぶ>など考えても見なかったことである。これもバイオの時代なのだろうか」と書いている。つまりアリジゴクは整地作業の時に砂を顎の力で刎ね飛ばすのだが、その際に「風力分級」という物理学を応用するというのである。
風力分級だのニュートン域だのと言われても、私にはチンプンカンプンなので、興味のある方は更に突っ込んでみてもらいたい。

アリジゴクはウスバカゲロウの幼虫であるが、これにも色々の種類がいるようで、水中で幼虫期を過ごす種類などは成虫になって2、3時間で死ぬものがあるから(その前に婚姻飛翔 nuptial flightという集団行動を取る)カゲロウは短命で儚いもの、という先入観があるが、このアリジゴクの幼虫と成虫に関しては、そうでもなかった。
このアリジゴクのウスバカゲロウは2、3週間生きるそうである。しかも幼虫期であるアリジゴクの期間が2、3年であることを考えると、かなり長命な昆虫ということである。

このアリジゴクは捕らえた虫の体液を吸うと、先に書いたが、体液を吸ったあとは、穴の外へボーンと放り投げて捨てる。また非常に変った体の構造をしていて、肛門がない。成虫になってから2、3年分の糞を一度に放出するらしい。
成虫のウスバカゲロウの活動期は7、8月の真夏である。

以上、専門的な記述をネット上に載る研究者の記事から紹介した。

私は内向的な性格の子供で、もちろん以上のような難しいことは知る由もなく、縁側の下で繰り広げられる蟻地獄の狩の様子を、じっと見つめるばかりであった。
アリジゴクの幼虫の成長につれて、すり鉢の穴の直径は大きくするようであった。直径1センチくらいのものが、3センチくらいにも大きくなるようであった。
そういう少年期の記憶が、後年になって、このような歌に結実したと言えるだろう。

掲出するのが遅くなったが、ウスバカゲロウの成虫の写真を出しておく。
usubakaウスバカゲロウ

俳句にも蟻地獄という夏の季語はあり、歳時記には結構多くの句が載っている。それを引いて終わる。

 蟻地獄ほつりとありてまたありぬ・・・・・・・・日野草城

 蟻地獄見て光陰をすごしけり・・・・・・・・川端茅舎

 蟻地獄みな生きてゐる伽藍かな・・・・・・・・阿波野青畝

 蟻地獄寂寞として飢ゑにけり・・・・・・・・富安風生

 むごきものに女魅せられ蟻地獄・・・・・・・・滝春一

 蟻地獄かくながき日もあるものか・・・・・・・・加藤楸邨

 蟻地獄群るる病者の床下に・・・・・・・・石田波郷

 蟻地獄孤独地獄のつづきけり・・・・・・・・橋本多佳子

 わが心いま獲物欲り蟻地獄・・・・・・・・中村汀女

 蟻地獄すれすれに蟻働けり・・・・・・・・加藤かけい

 蟻地獄女の髪の掌に剰り・・・・・・・・石川桂郎
-----------------------------------------------------------------------
先に書いた水生のウスバカゲロウのことだが、この種類は私の本題とは直接には関係がないので、ここに「余談」として書いておく。
ウスバカゲロウと言えば、実生活には、むしろ、この水生のウスバカゲロウの方が関係があるかも知れない。
というのは盛夏になると特定の川沿いの道路なんかに、この水生のウスバカゲロウやトビケラの群れが密集して飛び車の運転も出来ないようになるような光景が出現する。翌朝には道の上に層をなして死骸が重なっているのである。虫の油でスリップ事故なども起る。
これは先に書いた「婚姻飛翔」nuptial flightという雄と雌のウスバカゲロウが交尾を求めて群れるのである。こういう集団発生があちこちで見られる。
余談ではあるが、念のために書いておく。
トビケラの種類も日本でも数百も居ると言い、そのうちのどの種類であるかは判らない。水生のカゲロウとトビケラは、極めて近縁の昆虫であるらしい。
「群飛」して婚姻飛翔するのは先に書いた通り、本当である。
------------------------------------------------------------------------
この記事を元にして私の第二詩集『愛の寓意』(角川書店)に「風力分級」の題にして「詩」として載せた。
風力分級という非日常的な題なので、多くの人から注目されたようだ。一言触れておく。


copyright © 2020 Powered By FC2ブログ allrights reserved.