
海へ出る砂ふかき道浜木綿(はまゆふ)に
屈めばただに逢ひたかりけり・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第二歌集『嘉木』(角川書店)に載るものである。 初出は同人雑誌「かむとき」に発表したもの。
浜木綿の歌としては、古くは「万葉集」巻4(歌番号496)に柿本人麻呂の
み熊野の浦の浜木綿ももへなす心は思へどただに逢はぬかも
という有名な歌があり、浜木綿の歌と言えば、この柿本人麻呂のものが本意とされてきた。
私の歌も、この人麻呂の歌を多分に意識した歌作りになっている。
この一連15首を全部再掲する。なお、この歌はWeb上でもご覧いただける。
神の挿頭(かざし)・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
失せもののいまだ出でざる夜のくだち和紙の吸ひゆくあはき墨の色
海へ出る砂ふかき道浜木綿に屈めばただに逢ひたかりけり
わだつみの神の挿頭(かざし)か浜木綿の嬥歌(かがひ)の浜ぞ 波の音を聴け
ぞんぶんに榎の若葉空にありただにみどりに染まる病む身は
昂じたる恋のはたてのしがらみか式子の墓の定家葛の
そのかみの恋文は美(は)し暮れがたの朴の花弁の樹冠に光(て)れる
蝦夷語にてニドムとぞ言ふ豊かなる森はしろじろ朴咲かせけむ
くちびるを紫に染め桑の実を食みしも昔いま過疎の村
よき繭を産する村でありしゆゑ桑摘まずなりて喬木猛る
桑実る恋のほめきの夜に似て上簇(じやうぞく)の蚕の透きとほりゆく
絹糸腺からだのうたに満ちみちて夏蚕(なつご)は己をくるむ糸はく
桑の実を食みしもむかし兄妹(きやうだい)はみんなちりぢり都会に沈む
六地蔵の導く墓にとべら咲き海鳥の来て石碑(いしぶみ)穢す
海女のもの脱ぎすててありとべらなる白花黄花照り翳る昼
節分(しんねん)にとべらの枝を扉(と)に挿せる慣はしよりぞトビラと称(よ)べる
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