
桔梗やきりりと辛き飛騨の酒・・・・・・・・・・・草間時彦
桔梗(ききょう)あるいは漢字の音読みにして「きちこう」とも発音される。
この時彦の句ではキチコウの読みである。
キキョウ科の多年草で「秋の七草」の一つであるから、俳句では秋の季語となるが、実際には六月中旬には咲きだすところが多い。
青みがかった紫のものが多いが、栽培種も多く、白、紫白色、二重咲きなどいろいろである。
矮性の小さな種類もあるが、在来の50センチくらいの高さで、紫色のものが一番ふさわしい。

この句は旅に出て、飛騨の地酒を口に含んでの寸感であろうか。
私も老来、日本酒を嗜むことが多い。ビールなどは夏場しか飲まないようになった。
「万葉集」にいう「あさがお」は桔梗のこととされている。
小林一茶の句に
きりきりしやんとしてさく桔梗かな
というのがあるが、きっぱりと、すがすがしい野性味のある花と言えるだろう。
私の歌にも桔梗を詠んだものがあるが、昨年に採り上げたので遠慮して、歳時記に載る句を引いて終わる。

桔梗の紫さめし思ひかな・・・・・・・・高浜虚子
仏性は白き桔梗にこそあらめ・・・・・・・・夏目漱石
かたまりて咲きし桔梗のさびしさよ・・・・・・・・久保田万太郎
桔梗の花の中よりくもの糸・・・・・・・・高野素十
桔梗やまた雨かへす峠口・・・・・・・・飯田蛇笏
桔梗には鳴る莟あり皇子の墓・・・・・・・・平畑静塔
桔梗いまするどき露となりゐたり・・・・・・・・加藤楸邨
桔梗一輪死なばゆく手の道通る・・・・・・・・飯田龍太
桔梗挿す壺の暗さをのぞいてから・・・・・・・・桂信子
桔梗やおのれ惜しめといふことぞ・・・・・・・・森澄雄
おもかげをさだかにしたり白桔梗・・・・・・・・細見綾子
技芸天桔梗花びら露むすび・・・・・・・・沢木欣一
誰やらの死をたとふれば桔梗かな・・・・・・・・石原八束
桔梗や男も汚れてはならず・・・・・・・・石田波郷
百本の桔梗束ねしゆめうつつ・・・・・・・・藤田湘子
桔梗の色を見てゐる麻酔の前・・・・・・・・宮岡計次
桔梗咲く母のいのちのあるかぎり・・・・・・・・小桧山繁子
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写真③は矮性のキキョウである。
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