
──季節の一句鑑賞──おせち「ごまめ」「数の子」
■ごまめ噛む歯のみ健やか幸とせむ・・・・・・・・・・・・・・・細川加賀
今ごろになると、もう正月の「お節料理」もなくなったと思うが、お節(せち)料理の代表選手である「ごまめ」を採り上げたい。
これは「カタクチイワシ」の稚魚を天火乾燥させたもので、「五万米」とも「田作り」とも呼ばれる。
このカタクチイワシを焦がさぬように煎り、あめ煮にしたもの。
小さいながら、ゴマメには「尾かしら」もついており、安価でありながら縁起物として重宝されたのである。
カタクチイワシの体全体が食べられるので、栄養的にも優れている。私も大好きである。
私は「入れ歯」が一本もない。全部、自分の歯であるが、虫歯などで修復はしてある。
ゴマメなどの固いものも支障なく噛めるので快調である。
私の歯は掲出句そのものである。
ゴマメを詠んだ句を少し引く。
自嘲して五万米の歯ぎしりといふ言葉・・・・・・・・富安風生
噛み噛むや歯切れこまかにごまめの香・・・・・・・・松根東洋城
田作や河童に入歯なかるべし・・・・・・・・秋元不死男
口ばつかり達者になりしごまめかな・・・・・・・・橋場もとき
田作や箸に触れ合ふ海の色・・・・・・・・柴田清風居
齢重ねなほ田作のほろ苦き・・・・・・・・鷹野映
孫の顔ひとりふえたるごまめかな・・・・・・・・三宅応人
こしかたの正直すぎしごまめかな・・・・・・・・川上梨屋
田作の秤りこぼるる光かな・・・・・・・・永井暁江
つぎに、もう一つの代表として「数の子」を採り上げよう。

■ひとり飲む酒数の子の粒々も・・・・・・・・・・・・・・佐野良太
「数の子」は、アイヌ語で「かど」というのが「にしん」のことで、その卵巣を「かどの子」というのが語源だと言われている。
粒々の数が多くて「多産」の卵であるところから、子孫繁栄の意味もこめてある。
ニシンの漁期は4、5月だと言われ、乾燥したり塩蔵にしたりして保存する。
日本近海では獲れなくなったが、本来は食べる習慣がなかったカナダや北欧から大量に輸入されるようになり、今では一年中出回っている。
このぷりぷりとした歯ごたえが私は好きである。
数の子を詠んだ句を引いて終りにしたい。
数の子を好む子は皆母似にて・・・・・・・・大谷句仏
数の子にいとけなき歯を鳴らしけり・・・・・・・・田村木国
今は亡き子よ噛めば数の子の音のして・・・・・・・・加藤楸邨
数の子をかみかみひとりなるを思ひ・・・・・・・・龍岡晋
数の子の妻のこめかみめでたけれ・・・・・・・・石田波郷
数の子を噛む音子より起りけり・・・・・・・・浦野芳南
数の子や一男一女大切に・・・・・・・・安住敦
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