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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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詩のごとき財務分析書く人と言はれしことをひそかに誇る・・・・・・・・・・・・・渡辺幸一
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     詩のごとき財務分析書く人と
         言はれしことをひそかに誇る・・・・・・・・・・・・・・渡辺幸一


この人はイギリスのロンドン在住のエコノミストという職業についていた。日系企業ということではなく、英国籍の企業で、英語を日常語として勤務しているらしい。
「いた」と過去形にしたのは昨年かに長年勤めた「シティ」を退職したらしいからである。最近は歌人だけではなく「著述業」専門にされているらしい。
掲出画像は最新刊の本である。
「角川短歌賞」を受賞したこともある歌人としても有名な人であるが、2006年に『イギリスではなぜ散歩が楽しいのか?』という本を出された。

以下は、その当時の紹介記事。
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『イギリスではなぜ散歩が楽しいのか?』 渡辺幸一さん
在英15年の歌人の目

渡辺幸一さん タイトルの問いかけに、それは街並みがきれいで緑が多いからでしょう、と答えるのは簡単だ。では、なぜそのような住環境が保たれているのか、
この本は、そこまで考えさせ、教えてくれる。

 ロンドンに移り住んで15年。世界の金融の中枢、シティで働き続けてきた金融マンであり、角川短歌賞を受けた歌人でもある。イギリスについてのエッセーはこれで4冊目になる。
(草弥注・2006年末現在では、エッセイも6冊となった)

 「年を重ねるにつれて、いろんな面が見えてきます。イギリスの良い面は、だれもが人間らしい暮らしをする権利がある、という考え方が浸透していること。
今回は、人や環境にやさしい社会を作っている仕組みや制度を、『フレンドリー・ネットワーク』と名付けて書いてみました」

 ロンドン市街のコインストリートでは、高層ホテルを中心にした民間デベロッパーの再開発を退け、住民たちが公園や公共施設、賃貸住宅からなる再開発に成功した。
その事例を紹介しながら、権利を守るためには驚くほど行動的で、コミュニティーという人とのつながりを大切にする住民たちの姿をとらえる。

 イギリスに移住した理由の一つは、自閉症の長男によりよい環境を求めたためだった。
老人や障害者に対する福祉の、親身さやネットワークの緊密さが、どれほど彼らの生活の質を上げているかが、詳しく描かれる。

 「たしかに効率がよくないところも多い。私も買い物に行くとしょっちゅう腹を立てています。注文した商品が来なかったり、時間にルーズだったり。
でもだれかが本当に弱っている時、困っている時には助けてくれます」

 最近気づいたのは、本の表紙にカバーをつけている人がまずいないこと。「この国では他人と自分を比べない。
隣の人が何を読んでいるか関心がなく、だれものぞいたりしないからじゃないか、なんて思うんですよ」

 散歩が楽しいわけは、住環境の良さばかりではない。悠々とした精神のありようのためでもあるとわかってくる。(河出書房新社、1500円)(晶)

(2005年6月7日 読売新聞)

『イギリスではなぜ散歩が楽しいのか?』
渡辺幸一
出版社:河出書房新社
発行:2005年5月
ISBN:430924338X
価格:¥1575 (本体¥1500+税)
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この紹介記事にも書かれているが、イギリスに関するエッセイも今では6冊にもなるという。
年譜によると昭和25年生まれというから、いわゆる「団塊世代」ということになる。現在は「世界樹」という短歌会に所属しているらしい。

掲出歌は、並みの財務分析ではなく、「詩のごとき」財務分析を書く人と呼ばれることを文化人として「ひそかに誇っている」というものである。
欧米では「詩人」というのは尊敬される対象であることを申しておきたい。
この歌の載る一連を書き出してみよう。

       母なる国・・・・・・・・・・・・・・・・・・・渡辺幸一

   病む神を我らいただき中世と変はらぬ空を雲動くなり

   大戦の歴史に触れて靖国を「戦争神社」(ウオーシュライン)と英字紙は書く

   日本を「母なる国」と呼ぶまでに過ぎし時間の長さを思ふ

   日の丸を負ひておのれを鼓舞したるイチロー思へば涙ぐましも

このように、この人の歌は、いつも世界の中から見た「日本」を詠っている。
ここに引用した部分だけでも、例えば「靖国」の歌などに鋭い「批評精神」があるだろう。

次に、これもネット上に載るsanpomichiというサイトの「歌集逍遥」という記事である。
書き手の名前は不詳。
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[歌集逍遥5]
渡辺幸一第二歌集『日の丸』

 祖国などという言葉を、痛切な気持ちで思い浮かべることは、日本国内で暮らしているわたしの日常にはありません。
国際社会で生起するニュースを、新聞やテレビで見るとき、日本という国家意識はあっても、祖国という、個人の内面に結びつくような感情は湧きません。
オリンピックで、わたしが日本を応援するのは、学校の運動会で我が子を応援するのとかわりません。身贔屓です。
 しかし、ちょっと国外に出ると、たとえ短期間の観光旅行であっても、国内にいるときの自分が、如何に局所的かつ一面的見聞にしか触れていないか
ということを痛感させられるものです。

 『日の丸』の著者は、長い間、イギリスの金融界に身を置いて、みずから「移住者」と自己規定しています。
その視線の先に象徴的にあらわれて来るのが、表題の〈日の丸〉です。〈日の丸〉は、イギリスから見える日本でもあり、
イギリス人から見えるであろう自画像でもあり、また作者の存在根拠でもあります。

 白人がしばし我が顔見つめをり『南京の凌辱』買はむとすれば
 日本の英語を聞かせ笑はせるテレビCMが流されてをり
 〈アジア圏と君が言ふ時日本は含まれるか〉と洪氏は問へり

異国に日常を過ごすというのは、こういうことなのかと思います。白人の容赦ない視線や侮蔑に晒されながら、アジア人の詰問を受けながら、
作者は〈日の丸〉についての思索を深めてゆきます。その思いは、当然のことながら二項対立的に腑分けできるものではありません。
しずかに作者の内部に錘のような重さとして蓄積されます。

 異国にて言葉こそ斧 刃の先を鋭利にせよと告げをり我は
 ひとすぢの水零すごと日本の文字縦書きす異国の冬に

こういう歌の前で、わたしは長い時間たちどまりました。わたしたちは、何故短歌を作るのだろうと考えてしまうからです。
『日の丸』の作者にとって、短歌を作るということは、単なる日本文藝の踏襲でもないし、自己表現の手段でもないように思われます。
「言葉こそ斧」は、多くの局面を経てきた作者の必然を負っています。作歌も必然としてあるのでしょう。

 狂ひゆく我が日本語を哀しみぬ楔のごとき助詞求めつつ
わたしは『日の丸』を読みながら、日本語を美しいと思いました。

歌集『日の丸』(ながらみ書房、2004.4.21発行)
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ここに載る『日の丸』という歌集は渡辺氏の第二歌集ということである。
以下は、渡辺幸一の著作一覧である。

1. 英国のバランス日本の傾斜
渡辺幸一 /河出書房新社 2006/11出版 225p 20cm ISBN:4309243975 \1,575(税込)
2. イギリスではなぜ散歩が楽しいのか?人にやさしい社会の叡智
渡辺幸一 /河出書房新社 2005/05出版 208p 20cm ISBN:430924338X \1,575(税込)
3. 日の丸渡辺幸一歌集
渡辺幸一(1950-) /ながらみ書房 2004/04出版 151p 19cm ISBN:4860232305 \2,100(税込) 入手不可
4. ロンドン金融街で学んだイギリス式仕事と人生の絶妙な知恵
渡辺幸一 /河出書房新社 2004/01出版 206p 20cm ISBN:4309243037 \1,575(税込)
5. イギリス発・私的日本人事情(朝日文庫 )
渡辺幸一 /朝日新聞社 2002/04出版 263p 15cm ISBN:4022613599 \672(税込)
6. 通じる英語通じない英語日本の英語教育では絶対に教えてくれない実践会話術
渡辺幸一 /飛鳥新社 2001/06出版 247p 19cm ISBN:4870314673 \1,470(税込) 入手不可
7. イエロ-差別される日本人
渡辺幸一 /栄光出版社 1999/05出版 254p 20cm ISBN:4754100271 \1,575(税込)
8. 霧降る国(かりん叢書 ) 渡辺幸一歌集
渡辺幸一 /角川書店 1997/10出版 223p 20cm ISBN:4048716565 \2,625(税込) 入手不可
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(追記)
冒頭に掲出した歌について、ご本人が角川書店・月刊誌「短歌」2011年一月号に「仕事の歌」として、こんな記事を書いている。

<イギリスに移住した1990年から2008年まで、私はロンドンの金融街に身を置いた。
最初の五年間は株のセールスマンとして、その後の十三年間は企業の財務を分析し、英文でレポートを書くアナリストとして働いた。
同僚のアナリストには、独自のレポートのスタイルを誇示するために、わざと難解な表現を用いて得意がる者が多かった。
ある時、同僚の書いたレポートに理解できない個所があったので、本人に質問すると、「これは旧約聖書の『出エジプト記』からの引用だよ」とこともなげに言われた。
財務分析の文章に、なぜか「出エジプト記」が出てくるのである。
私も対抗して、特徴のあるレポートを書きたかったが、英語の作文力ではイギリス人に遠く及ばない。
そこで、せめて分かりやすく美しい文章を書くことを心がけ、私なりに工夫した。
たとえば、日本の消費者金融業界が世論にきびしく批判され、法律の改定によって窮地に立たされた時、
「Loan companies are forced to fight alone(金融業者は孤軍奮闘を強いられている)」という具合に、
前の「loan」と後の「alone」で韻を踏む文章を書いた。
この種の文章をレポートの随所にこっそり忍び込ませると、「ワタナベは詩のような財務分析を書く」と評判になった。
むろん、いろいろな指標に基づいて財務の細部を調べるのは大変な作業で、文章にばかり力を入れるわけにいかなかったが、
詩的な雰囲気を湛えた英文レポートを書くことは、ひそかな快楽であり、誇りであった。
そこには多分、短歌という詩に関わる私の自負心も働いていたと思う。>

西欧詩をやられた人なら、これを読まれたら、ニヤリとされると思う。 いい文章である。
「物書き」と呼ばれるからには、こういう緻密な作業をしたいものである。 紹介しておく。



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