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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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紫野貴李 『前夜の航跡』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
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──新・読書ノート──

紫野貴李 『前夜の航跡』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
      ・・・・・・・・・・新潮社2010/11/19刊・・・・・・・・・・・・・・・

     大戦前夜の昭和初頭、頻発する演習事故に巻き込まれ、多くの海軍将兵が命を落とした。
     明日をも知れぬ時間の中で、青年将校たちに訪れたのは不思議な奇跡。
     ある者は荒れ狂う海から生還し、ある者は死んだはずの友と語り合い……。
     椎名誠氏、絶賛! 
     謎めいた仏師を軸に織りなされる、切なく温かい涙を誘う幻想奇譚。

新潮社の読書誌「波」 2010年12月号より 書評を引いておく。
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        「救い」と「導き」に二度、泣いた      ペリー荻野

「霊」とか「怪奇現象」と聞けば、たいてい「恐怖」「怨念」「ホラー」などという言葉が連想されるが、本作は超常現象を扱いながら、まったく方向性が違う。「救い」「導き」に満ちた展開に、私は二度、泣いた。
 主人公はそれぞれに異なるが、五話の連作の舞台は共通していて、とても特殊だ。昭和初期の日本海軍。軍隊という人間関係の閉鎖性と、海に浮かぶ軍艦の閉鎖性。二重に閉じられた世界の息苦しさと、たびたび起こる悲惨な海難事故が「怪奇現象」に結びつく。
 第一話「左手の霊示」の物語の語り手は、爆発事故で左手を失った芹川達人中尉である。彼は、若き仏師笠置亮佑が作った義手をした途端、その「左手」が、霊に反応して光り、漂う者たちの言い分を「聞ける」ようになった。そこに目をつけたのが、同じ事故で片目を失くし、「独眼竜」と呼ばれるようになった支倉竜之介大佐。諜報部の特殊任務機関「丁種特務班」に所属する彼らは、自死した村路海軍大佐が夜な夜な現れるという空き家で、その霊と向き合う。
 何より、登場人物のキャラクターがいい。海軍大学校を次席で卒業しながら、「いささか素行に問題があって」出世が遅れている独眼竜は、口は悪いが部下思い。人間味いっぱいの男である。そんな独眼竜に振り回されつつも、不可思議な出来事に立ち向かう芹川。さらに重要なのは、その左手を作った亮佑である。天才肌だが、芸術家にも教育者にもなるつもりがない亮佑は、ひとりの仏師として生きるために修業を重ねる。その生き方だけでもカッコいいのに、その外見が「不精髭を剃れば、観音菩薩も尻を端折って逃げそうな面差し」で、「着やせする体格は、皮膚の下にひそませた筋肉が均斉美でもって人目を魅きつけた」というくらいの美形なのである! うれしいことにこの超美形の亮佑は、五話全部に登場する。この他、勇敢な猫の黒吉、「将校ともあろう者が、軍服で風呂敷包みなど持つものではありません」と芹川にきりりと説教する旅館女将の叔母も、すごく魅力的だ。
 第二話「霊猫」は、タイトルの通り、不思議な猫の話である。
 材木問屋大和屋の三男坊・榎田利秀は、海軍経理学校を卒業後、経理畑で仕事をしていた。軍艦に積み込む米がねずみによって多大な被害を受けていると知った彼は、その対策として、著名な仏師笠置峻作が彫った猫を置くことを提案する。その後、急な人事異動で軍艦に乗り込むことになった榎田のところに、峻作の息子・亮佑が現れる。彼は「この子が一日でも早く、きみの傍に行きたがって……」と、丸まって眠る木彫りの子猫を持参していた。半信半疑で子猫と航海に出た榎田は、すさまじくも感動的な体験をすることになる。
 多くの読者は、このストーリーに先般、チリで起きた落盤事故と救出劇を思い出すはずである。もちろん、小説が執筆されたのは、事故発生のずっと以前だが、極限に追い詰められた人間の勇気と決断の描写は、とてもリアルで作家の力を見た思いがする。
 続く第三話「冬薔薇」は、体調を崩して療養を余儀なくされた機関長が体験する友情の物語、第四話「海の女天」は、幼い頃に悲惨な出来事を体験した主人公が、海で幻想的な出会いをする話。海は男たちの希望の職場であり、同時に命を飲み込む魔界でもある。暗い緊迫感のなかに、ふと差し込むあたたかな光。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」では、己のみが助かろうとしたために、せっかくお釈迦様がたらしてくれた蜘蛛の糸は切られ、主人公は再び地獄に堕ちていく。しかし、本作では、差し込んだ光のおかげで、漂う霊も、現世に生きる人間も救われるのである。このあたたかさこそが、作家の個性といえると思う。
 作者の紫野貴李氏は、当時の海軍事情や立身を願う軍人たちの心理にとても詳しい。文中の海難事故も、すべて実際に起きた事例である。司馬遼太郎の「坂の上の雲」を読んで感銘を受け、この分野について研究を重ねた結果だという。第五話「哭く戦艦」では、再び芹川・独眼竜の「丁種特務班」コンビと亮佑が登場。有名な戦艦「三笠」の謎に挑む。丁種特務班は、ぜひシリーズ化してもらいたい。美形仏師があっさり妻帯してしまったのは、ちょっと残念だが、彼の魅力もたっぷりと書き加えてほしいと願っている。   (ぺりー・おぎの コラムニスト)
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この本は第22回日本ファンタジーノベル大賞受賞作に輝いたものである。
私は、この大賞の第一回の酒見賢一のときから愛読してきた。
この賞を得てから大きく羽ばたいて行った作家を何人も知っている。

さて、この小説は

“さて、船霊さんに会いましょうか――”美しい仏師は、微笑みを湛え奇跡を呼ぶ。

大戦前夜の昭和初頭、頻発する演習事故に巻き込まれ、多くの海軍将兵が命を落とした。明日をも知れぬ時間の中で、青年将校たちに訪れたのは不思議な奇跡。ある者は荒れ狂う海から生還し、ある者は死んだはずの友と語り合い……。
 謎めいた仏師を軸に織りなされる、切なく温かい涙を誘う幻想・・・・・・。

紫野貴李/シノ・キリ

1960年、埼玉県生まれ。二十歳の頃から小説を書き続け、2007年には第1回「ちよだ文学賞」大賞を受賞。
司馬遼太郎の『坂の上の雲』に感銘を受けたことをきっかけに旧海軍への関心を深めた。
2004/06には『椈(ぶな)は唄う』という作品を出している。

「立ち読み」も出来るので、さわりだけだが覗いてみられよ。


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