
唐国の壺を愛して梅を挿す
妻の愁眉や未だ寒き日・・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第四歌集『嬬恋』(角川書店)に載るもので、妻の体調が悪くなりかけた頃のものである。
それは「妻の愁眉」という個所に表現してある。
自分の体調に愁眉の愁いを表わしながら、妻が唐国の壺に梅を活けている、という歌である。
この歌は自選にも採っているのでWeb上のHPでもご覧いただける。
梅の開花は、その年によって遅速があるが今年は寒さが厳しいので果して、いつごろ満開になるだろうか。
何度も書いたことだが、私の住む「青谷村」は鎌倉時代以来、梅の名所として規模は大きくはないが、伝えられてきた。
「万葉集」では、「花」というと「梅」のことだった。今では俳句の世界では「花」と言えば「桜」を指すことになっている。
「和歌」「短歌」でも同じである。気候的にも桜の咲くころは春まっさかりという好時期であり、日本人は一斉に花見に繰り出すのである。
しかし、「梅」には、馥郁たる香りがあり、しかも花期が極めて長くて、長く楽しめる。
梅の産地生まれだからというわけではなく、どちらかというと、私は「梅」の方が好きである。

梅の花については、先に姉・登志子のところでも挙げたが、私は梅の歌をいくつも詠んでいる。
掲出した歌の次に
壺に挿す白梅の枝のにほふ夜西班牙(スペイン)語の辞書を娘に借りにゆく
という歌がある。実は、私の次女は外国語学部でスペイン語が専攻だった。
歳時記にも「梅」の句は多い。それらを引いて終りたい。
梅が香にのつと日の出る山路かな・・・・・・・・松尾芭蕉
むめ一輪一りんほどのあたたかさ・・・・・・・・服部嵐雪
二もとの梅に遅速を愛すかな・・・・・・・・与謝蕪村
梅一枝つらぬく闇に雨はげし・・・・・・・・水原秋桜子
勇気こそ地の塩なれや梅真白・・・・・・・・中村草田男
梅も一枝死者の仰臥の正しさよ・・・・・・・・石田波郷
梅白しまことに白く新しく・・・・・・・・星野立子
梅咲けば父の忌散れば母の忌で・・・・・・・・安住敦
梅挿すやきのふは酒のありし壜に・・・・・・・・石川桂郎
梅二月ひかりは風とともにあり・・・・・・・・西島麦南
白梅のあと紅梅の深空あり・・・・・・・・飯田龍太
紅梅の天死際はひとりがよし・・・・・・・・古賀まり子
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普通、紅梅は白梅よりも時期があとになることが多い。
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