
かたつむりの竹の一節越ゆるを見て
人に会ふべき顔とりもどす・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第一歌集『茶の四季』(角川書店)に載るもので、自選にも採っているのでWebのHPでもご覧いただける。
カタツムリはどこにでも居る陸の巻貝だが、農業を営む人たちには新芽を舐めて害するので嫌われている。
私は昆虫少年でもなかったが、内向的な性格の子供だったので、虫や昆虫、カタツムリなどの生態を、じっと見つめているのが好きだった。
この作品は、もちろん後年のものだが、少年期の、そういう記憶が歌に結実したものと言えるだろう。
カタツムリの這う速度は、文字通り遅々としていて、この歌に詠んである通り、竹の一節を越えるのに大層な時間がかかる。
そんなカタツムリの歩みをじっと見つめていて、ようやく竹の一節を越えたなぁ、と思っているうちに、
「そうだ、誰それさんに会う約束があるのだった」と、ハタと気がつく、という歌である。
私自身は、この歌が結構気に入っているのである。
梅雨のシーズンになるとカタツムリの大好きなじめじめした天気になる。
カタツムリを詠んだ句を引いて終る。
蝸牛(ででむし)の頭もたげしにも似たり・・・・・・・・正岡子規
雨の森恐ろし蝸牛早く動く・・・・・・・・高浜虚子
蝸牛や降りしらみては降り冥み・・・・・・・阿波野青畝
やさしさは殻透くばかり蝸牛・・・・・・・・山口誓子
あかるさや蝸牛かたくかたくねむる・・・・・・・中村草田男
蝸牛喪の暦日は過ぎ易し・・・・・・・・安住敦
蝸牛いつか哀歓を子はかくす・・・・・・・・加藤楸邨
蝸牛遊ぶ背に殻負ひしまま・・・・・・・・山口波津女
蝸牛や岐れ合ふ枝もわかわかし・・・・・・・石田波郷
かたつむり日月遠くねむりたる・・・・・・・・木下夕爾
悲しみがこもるよ空(から)の蝸牛・・・・・・・・鷹羽狩行
かたつむりつるめば肉の食ひ入るや・・・・・・・・永田耕衣
かたつむり甲斐も信濃も雨の中・・・・・・・・飯田龍太
妻の疲れ蝸牛はみな葉の裏に・・・・・・・・沢木欣一
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