
↑ ピレネー・ボイ谷の世界遺産サン・クレメンテ教会
──巡礼の旅──(6)
ピレネー山脈ボイ谷の「サン・クレメンテ教会」・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
スペインの玄関口、地中海に面したバルセロナからイベリア半島北部をピレネー山脈に沿って横断し、聖地サンチアゴ・デ・コンポステーラに向かうルートに乗る。
バルセロナを出てしばらく北上すると、目の前に巨大な山塊が出現する。余りに大きすぎてバスの車内からでは頭を屈めないと頂が見えないくらい。
これがイベリア半島北部を東西に横断している、標高二~三千メートル級の山々が連なるピレネー山脈だ。
スペインの秘境ボイ谷は1948年にビエラ・トンネルが開通するまでは全く交通手段のない所で千年前の独自の伝統を持ち続けてきた奇跡の谷だった。
トンネルは約30分かかり、そこを抜けると別世界だ。
1999年12月、谷の一番奥のタウイのサンタ・マリアとサン・クレメンテ。ボイのサン・ジュアン。一番トンネルに近いバルエラのサン・フェリオの四か所の教会が世界遺産に指定された。
アクセスと知名度のおかげで、今では主要観光ルートの一つになったが、しばらく前までは祭壇の前に立つと千年まえの雰囲気がそのまま残っていたという。
その後、この谷は大きく変容して、今では古い民家は今は一軒も残っていないという。
今でこそピレネー山中にひっそりと佇むロマネスク教会の里・ボイの谷として有名になったが、この谷にあるタウイ村は、まるで天空の村のようだ。
↓ サンタ・マリア教会の穹窿

歩いて聖地サンチアゴに向かう巡礼者にとってはピレネーは山岳美よりも、むしろ目の前に立ちはだかる難所なのである。
フランスからスペインに抜けるルートでは巡礼者が誰しも越えなければならない苦しい峠越えだ。
ピレネー越えのソンボール峠の標高は1640メートルほどだが、20キロ前後の荷物を背負って何百キロもの道のりをひたすら歩いて来た巡礼者にとっては、とても厳しい。
かつて中世の頃は、このピレネー越えで命を落した巡礼者はおびただしいという。
今も峠の旧道を一歩一歩、ゆっくりとした足取りで峠を登ってゆく巡礼者の姿を見ることがある。
ピレネー山脈は、そんな人々の思いを乗せて、今も天に聳えている。

ここで「聖人サン・クレメンテ」のことを書いておく。
聖ペテロと聖パウロの直弟子であったと言われている4代教皇聖クレメンテという人が居られて、キリスト教への貢献によって聖人に列聖された人である。
彼の名を冠した教会はあちこちにあり本拠はイタリアだが、アメリカ大陸にもある。
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