
小景異情 その二・・・・・・・・・・・・・・・・室生犀星
ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食(かたゐ)となるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや
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この有名な詩は『抒情小曲集』の巻頭に載るもので、年譜によると
<二十歳頃より二十四歳位までの作にして、就中「小景異情」最も古く・・・・・>と書かれている極く初期の作品である。初出は『朱欒』大正2年2月、となっている。
故郷にて冬を送る・・・・・・・・・・・・・室生犀星
ある日とうどう冬が来た
たしかに来た
鳴りひびいて
海鳴りはひる間も空をあるいてゐた
自分はからだに力を感じた
息をこらして
あらしや
あらしの力や
自分の生命にみち亘つてゆく
あらい動乱を感じてゐた
木は根をくみ合せた
おちばは空に舞ふた
冬の意識はしんとした一時(とき)にも現はれた
自分は目をあげて
悲しさうな街区を眺めてゐた
磧には一面に水が鋭どく走つてゐた
『愛の詩集』所載。初出は『詩歌』大正4年1月。
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という詩もある。
最初に掲げた詩は有名なもので、特に、はじめの短歌のリズムの二行だけを取り出して引用されることもある。
私の持っている『定本・室生犀星全詩集』(昭和53年・冬樹社刊)は全三巻で、一冊の厚さは5センチもあるものである。
近代詩の巨人として、その後の現代詩に繋がる偉業を成し遂げた。
むつかしい語句もないので、年末の忙しい時期だが、ゆっくり鑑賞してもらいたい。
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