ひととせを描ける艶(ゑん)の花画集
ポインセチアで終りとなりぬ・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第二歌集『嘉木』(角川書店)に載るものである。
この歌のつづきには
ポインセチアの一鉢に似て口紅を濃くひく妻は外出もせず
あかあかと机辺を光(て)らすポインセチア冬の夜長を緋に疲れをり
という歌が載っている。
ポインセチアは学名をEuphorbia pulcherrima というが、原産地は中央アメリカ──メキシコである。赤い花の部分は正確には苞(ほう)である。
品種改良がすすみ、多くの花があるが写真②は2003年に産出されたばかりの「アヴァンギャルド」という新品種。
あと二つほど色違いをお見せするが、私などにはポインセチアと言えば、やはり「真紅」のものが好ましい。
すっかりクリスマスのシンボルのように扱われているポインセチアだが、その歴史は、こんな経緯である。
むかし、メキシコにアズテク族というインディアンが住んでいて、生活の中で、この植物を上手に利用していた。苞から赤紫色の色素を採り、切った時に出る白い樹液からは解熱作用のある調剤が作られた。現在のタスコ(Taxco)付近の地域を起源地とするポインセチアはインディアンにCuetlaxochitlと呼ばれて、その輝くような花は「純粋性のシンボル」とされていた。
17世紀に入り、フランシスコ修道会の僧たちが、この辺りに住み着き、その花の色と咲く時期から「赤はピュアなキリストの血」「緑は農作物の生長」を表していると祭に使われるようになった。
1825年、メキシコ駐在のアメリカ大使Joel Robert Poinsett氏(1779-1851)は優れた植物学者でもあったため、アメリカの自宅の温室から植物園などへポインセチアが配られた。「ボインセチア」の名はポインセット氏の名前に由来する。
1900年代はじめから、ドイツ系の育種家アルバート・エッケ氏などの尽力で、市場向けの生産などがはじまった。
ポインセチアは「短日性」の植物で、1日のうちで夜のように暗い状態が13時間以上になると開花する。
写真③④はマーブルとピンクの改良種である。
歳時記に載る句を少し引いて終りにしたい。
小書斎もポインセチアを得て聖夜・・・・・・・・富安風生
ポインセチア教へ子の来て愛質(ただ)され・・・・・・・・星野麦丘子
時計鳴り猩々木の緋が静か・・・・・・・・阿部筲人
ポインセチア愉しき日のみ夫婦和す・・・・・・・・草間時彦
ポインセチアの色溢れゐる夜の花舗・・・・・・・・宮南幸恵
ポインセチアや聖書は黒き表紙かな・・・・・・・・三宅絹子
ポインセチア愛の一語の虚実かな・・・・・・・・角川源義
ポインセチア独りになれ過ぎてはならず・・・・・・・・鈴木栄子
ポインセチアその名を思ひ出せずゐる・・・・・・・・辻田克己
ポインセチアどの窓からも港の灯・・・・・・・・古賀まり子
星の座の定まりポインセチアかな・・・・・・・・奥坂まや
ポインセチア画中に暗き聖家族・・・・・・・・上田日差子
寝化粧の鏡にポインセチア燃ゆ・・・・・・・・小路智寿子
休日をポインセチアの緋と暮るる・・・・・・・・遠藤恵美子
ポインセチア抱いて真赤なハイヒール・・・・・・・・西坂三穂子
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