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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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楡周平『 虚空の冠』(上)(下)・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
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──新・読書ノート──

楡周平『 虚空の冠』(上)(下)・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
              ・・・・・・・・新潮社2011/10/27刊・・・・・・・・・・・・・

     敗戦後、新聞記者となった純粋な青年は、ある事件を境に、上昇志向にまみれた“怪物”と化した。
     弱肉強食の激動の世を、下剋上を信条にのし上がり、メディア王として君臨し続けるその男に、
     通信業界の若き旗手が「電子書籍」で勝負を仕掛ける!
      時代を制するのは帝王の経験か、迸る情熱か? ありうべき未来を描く入魂の大作!

新潮社の読書誌「波」2011年11月号から書評を引いておく。
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     電子書籍普及への秘策あり!・・・・・・・・・・・・元木昌彦

 楡氏の新刊に触れる前に、私のささやかな失敗体験から始めることをお許しいただきたい。
 私が出版社に在籍していた一九九九年にインターネット週刊誌『Web現代』を創刊した。毎週十本程度の記事を無料配信する一方で、有料のグラビア、占い、各地の名産品や版画、工芸品などのネット通販、それに電子書籍など様々なことを手がけた。
 当初微々たる売り上げが三年を超える頃から月数千万円にまでなったが、プロバイダーに売り上げの35%を持っていかれるためにビジネスモデルにはなり得ず、女性誌テイストに変えてみたりしたが、数年前に“休刊”となり、社に新たにできたデジタル局までもがなくなってしまった。
 こうした体験から、電子書籍を普及させるためには越えなければならない三つのハードルがあることを学んだ。文庫本を凌駕する手軽で見やすい携帯端末の普及、コンテンツの充実、クレジットカードではない課金システムの構築である。
 楡氏の本に戻そう。今回の長編小説『虚空の冠』のテーマはメディアである。物語は昭和二十三年、極東日報の若い記者・渋沢大将が孤島で起きた大火事の取材に行く途中、船が米軍艦に衝突され、たった一人生き残るところから始まる。
 占領下である。日本人の反感と海軍の面子が潰れることを恐れた米側は、この事故を単なる海難事故として処理し、記事にしたいと訴える渋沢の言い分は社の上司から拒絶されてしまう。
 それでも反発する渋沢を上司はある人物のところへ連れて行く。占領政策をすみやかに行うための「終連」OBでGHQと太いパイプをもつこの男は、事故のことを一切他言しないのを条件に、渋沢の政治部への異動と、これ以降、政権中枢の極秘情報を彼に流すことを約束するのだ。
 スクープ記者として名を馳せた渋沢だが、彼の理解者だった社長の突然の死でその人生は暗転する。子会社に飛ばされるが、これからはテレビの時代が必ずくると先を見据えていた旧知の人間に誘われ、彼の会社へ移り、手腕を発揮して、ついには追い出された極東日報の社長として戻る。
 その後、非情な手段でテレビ会社まで乗っ取り、新聞、テレビ、出版を傘下に置くメディアの王として長きにわたって君臨する。
 しかし順調だった王国にも翳りが見え始める。八十三歳になった渋沢が直面するのは、部数減と広告収入の落ち込みにあえぐメディア王国崩壊の危機である。
 そこへベンチャーで業界第三位までのし上がった携帯電話会社の人間から、電子書籍ビジネスを始めるから渋沢の傘下にあるコンテンツを提供してくれないかという話が持ち込まれる。
 先に書いたように、電子書籍の専用携帯端末をどのように普及させるかは難問中の難問であった。それを解決するために、この携帯電話会社のトップは壮大な賭けに出るのだが、私は「この手があったか」と声を上げ膝を叩いた。
 彼の野心は、端末を普及させ電子書籍のプラットフォームを独占して電子活字メディアの世界を牛耳ろうというものだ。
 渋沢はコンテンツを提供するだけでは向こうにプラットフォームを握られてしまうことに気づき、最大手の通信キャリア、メーカー、大手出版社を巻き込み社運を賭けた電子化の覇権争いに打って出る。
 新聞の電子配信が進めば販売店は仕事を失い、出版界は書店が消え取次も危うくなる。
 しかし渋沢は、環境の激変を恐れ、既存流通に気兼ねをして何も決められないでいる出版業界を「俯瞰的戦略というものが全くない」と批判し、新聞の電子配信や電子書籍は活字産業に携わる人間にとってはパンドラの箱だ、開いてしまった以上、仕事が消滅するのは仕方ないと非情にいい切る。紙媒体の電子化は産業革命なのだ。
 この小説を、ネットの有料化で失敗を重ねている新聞社や、電子書籍化に及び腰の出版社の経営者たちに読んでもらいたい。すべての解決策が示されているわけではないが、これを読まずして電子書籍について語ることはできない。
 これは「覚悟をもって決断せよ」とメディアののど元へ楡氏が突きつけた匕首である。 (もとき・まさひこ 編集者)
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楡周平/ニレ・シュウヘイ

1957年生まれ。慶應義塾大学大学院修了。1996年、米国系企業在職中に書いた『Cの福音』でデビューし、翌年より専業作家になる。以降、『再生巨流』『異端の大義』『ラストワンマイル』『プラチナタウン』『骨の記憶』『介護退職』など、数々の話題作を発表し続けている。

目次

上巻
第一章 虚報の船
第二章 虚栄の糸
第三章 虚構の波

下巻
第四章 虚礼の煙
第五章 虚名の王
終章 虚空の冠

「立ち読み」(上巻) 「立ち読み」(下巻)も出来るのでトライされよ。
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この小説は、今はやりの「電子書籍」を採り上げたものである。
私のような「本」派の人間には「紙」媒体には限りない愛着があるが、出版の業態も、これから大きく変わって行くことだろう。
このブログでも採り上げたことがあるが、角川書店グループの統括体である「角川グループホールディングス」代表取締役会長兼CEOである角川歴彦が
『クラウド時代と<クール革命>』なる本を出しているような始末であるから、出版人たちの中でも、これらは深刻な現実なのである。

コメント
コメント
おはようございます。
なんや、ほんまに現在のネット環境の問題そのものみたいですね。

四条寺町の大きな本屋さん、紀伊国屋が倒産しました。
出版関係の厳しさを垣間見た気がします。

検索やブログではネットの便利さも痛感しているわけですが、
活字はやはり印刷物がいいと、アナログ人間は思うのです。
長時間の読書はディスプレイでは疲れますね。
2011/11/26(土) 08:02:17 | URL | 阿修羅王 #QmhNi1cU [ 編集 ]
私は「本」派ですが、本の購入は全くネット書店オンリーです
■阿修羅王さま。
お早うございます。
四条寺町の紀伊国屋というのは「紀伊国屋」の系列店ですか。
この店には入ったことがありません。
私は「本」派ですが、本の購入は全くネット書店オンリーです。
アマゾンもいいのですが、決済のクレジットカードがビザとマスターだけなので、
私はカードは集約していますので、
「BK-1」をよく使います。
大きな本屋は目当ての本のあるところに辿りつくのが厄介で、
現実の本屋には滅多に行きません。
カメラでも、そうですよね。
「一眼レフ」が、やはり、いい。
最近もデジカメ一眼を安いのを買いましたが、設定に時間がかかって殆ど使いません。
デジカメは、もう何台お蔵に入っているやら。おっしゃるように「ディスプレイ」は
ちらちら動いている訳で、目の疲れるのも当然です。
果たして、これから、どう推移してゆくのでしょう。
コメントは置かなくても、ほぼ毎日、貴ブログは拝見しています。
では、また。
2011/11/27(日) 08:57:32 | URL | sohya #- [ 編集 ]
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