
煮凝りの魚の眼玉も喰はれけり・・・・・・・・・・・・・・・・西島麦南
煮魚を汁とともに寒夜おいて置くと、汁がこごり固まる。これが煮凝(にこご)りである。特に骨にはゼラチンが多く含まれているのでよく凝る。
掲出の写真は、ひらめのアラを使った煮凝りだという。アラを、このように捨てずに有効利用するとおいしい食物になる。
適当な写真がないので出せないが、掲出句に詠まれる煮魚の煮凝りは冬には普通に見られるものであった。

写真②は、高級食材の「ふぐ」の皮などを煮詰めた「ふぐの煮凝り」であり、ふぐのセット料理の一品としてだされるもの。
こうなると、たかが煮凝りなどとは言えない、高級料理である。
煮凝りは、どちらかと言うと、大人向きの食事で、子供向きではない。掲出の句は、そういう機微もうまく捉えた、ほのぼのとした句である。
以下、煮凝りの句が多くあるので、それを引いて終りたい。
煮凝を探し当てたる燭暗し・・・・・・・・高浜虚子
煮凝や色あらはなる芹一片・・・・・・・・大谷碧雲居
煮凝や親の代よりふしあはせ・・・・・・・・森川暁水
寂寞と煮凝箸にかかりけり・・・・・・・・萩原麦草
煮凝や父在りし日の宵に似て・・・・・・・・草間時彦
煮凝りを箸にはさみて日本人・・・・・・・・山口波津女
煮こごりや夫の象牙の箸づかひ・・・・・・・・及川貞
煮凝や他郷のおもひしきりなり・・・・・・・・相馬遷子
煮凝りのひえびえと夜のかなしけれ・・・・・・・・長谷川湖代
煮凝りや母の白髪の翅のごと・・・・・・・・土橋璞人子
煮凝や死後にも母の誕生日・・・・・・・・神蔵器
煮凝や凝るてふことあはれなる・・・・・・・・轡田進
煮凝りて眼鼻なほあり鮒の貌・・・・・・・・松本翠影
煮凝やますます荒るる海の音・・・・・・・・佐藤漾人
煮凝や若狭の入江深うして・・・・・・・・辻桃子
居酒屋のいつもの席の凝鮒・・・・・・・・沖鴎潮
煮くづれしまま煮凝となりにけり・・・・・・・・来栖恵通子
煮凝の喉にとけゆく母国かな・・・・・・・・大屋達治
さびしさの煮凝り売りし頃のこと・・・・・・・・高島征夫
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わが敬愛する島本融氏がHPを更新されて作り溜めた俳句を、たくさんアップされた。
その中に
仲直りよべの煮こごり食べようよ・・・・・・・・・・・・・・・島本融
という句を見つけたので、ここにご披露しておく。
氏には、句集『午後のメニスカス』があり、Web上の私のHPでご覧いただける。
島本融氏は、未知の人であったが、偶然に私のHPを見た、と言ってメールを送って来られて交友するようになった。
本人は何も仰言らないが、検索してみて、氏が河井酔茗、島本久恵氏のご次男であること、群馬県立女子大学教授であられたこと、東京工芸大学のことなどが、サーフィンの結果判った。美学者であられる。
島本氏には先年上梓された歌集『アルカディアの墓碑』もある。
ここに引いた句を含む新作については機会をみて載せたい。
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