
鼻の穴涼しく睡る女かな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・日野草城
草城は中学5年(今の高二)の時から「ホトトギス」に投句し、21歳で巻頭掲載をかちとった程の早熟の才だったという。
この句も初期作品だが、対象把握の即物的かつ感覚的間合いの良さは抜群である。夏の昼寝であろう。
女の健康な寝息まで聞こえて来そうな午後の静けさ。
一見、簡単に詠んでいるようだが、こういう端的に爽やかな印象の句は意外なほど少ない。昭和7年刊『青芝』所収。
掲出の絵はピカソの「夢─赤い椅子に眠る女」である。
夏は暑くて体力を消耗するので、午後のしばらくを昼寝して元気を回復させる。
三尺寝という言葉があるが、これは日影が三尺移るぐらいの時間を眠るので、こういう。
植木屋や大工などの職人は、いたるところで場所をみつけて昼寝する。これも生活の知恵である。
ラテン・ヨーロッパや南方ではシエスタと称して店も役所も閉める習慣がある。
以下、昼寝または午睡の句を挙げてみよう。
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ひやひやと壁をふまへて昼寝哉・・・・・・・・・・・・松尾芭蕉
我生の今日の昼寝も一大事・・・・・・・・・・・・・高浜虚子
うつぶせにねるくせつきし昼寝かな・・・・・・・・・・・・久保田万太郎
稍固き昼寝枕や逗留す・・・・・・・・・・・・松本たかし
一片舟昼寝の足裏涛のむた・・・・・・・・・・・・中村草田男
浮浪児昼寝す「なんでもいいやい知らねいやい」・・・・・・・・・・・・中村草田男
昼寝覚凹凸おなじ顔洗う・・・・・・・・・・・・西東三鬼
父の齢しみじみ高き昼寝かな・・・・・・・・・・・・阿波野青畝
昼寝覚うつしみの空あをあをと・・・・・・・・・・・・川端茅舎
昼寝ざめ剃刀研ぎの通りけり・・・・・・・・・・・・西島麦南
よき昼寝なりし毛布をかけありし・・・・・・・・・・・・堺梅子
やまひなきひとの昼寝を羨しめり・・・・・・・・・・・・山口波津子
光陰の流るる音に昼寝覚・・・・・・・・・・・・野見山朱鳥
さみしさの昼寝の腕の置きどころ・・・・・・・・・・・・上村占魚
麦の青樹の青赫と昼寝さむ・・・・・・・・・・・・野沢節子
午睡たのしげ乳ぽつちりと釦はづし・・・・・・・・・・・・中山純子
いづくより手足しびれて昼寝覚・・・・・・・・・・・・森澄雄
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