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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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谷口謙詩集『大江山』から・・・・・・・・・・木村草弥
谷口謙

──新・読書ノート──

     谷口謙詩集『大江山』から・・・・・・・・・・木村草弥
              ・・・・・・・土曜美術社出版販売2011/09/01刊・・・・・・・・・

         大 江 山   

     幼時のとき
     服装は着物に白いエプロンのような
     前垂れを付けていた
     屋外の道路
     立って南方を眺めると
     いつもはるか 大江山がそびえていた
     いや 晴天の日だけだったかもしれない
     うっすら頭を出していた
     ぼくは急いで帰り
     お母ちゃん 大江山が見えとるで
     幼いぼくの丹後弁
     某日
     めったにないことだが
     タクシーが走って来た
     ぼくが家に帰ろうとしたその時
     車は急停車をした
     ぼくの家の玄関に三人の男が入り
     どなりつけた
     おまえとこの子供 危ないだないか!
     ちょっとのことでひかなんだが
     阿呆
     よう気をつけい
     ぼくは母の背なかに隠れた
     お母ちゃん
     の声も出なかった
     母は落ちついていて一言も発言しなかった
     ぼくを叱りもしなかった
     ただ にこにこ笑っていた
     拍子ぬけしたのだろう
     男たちは口々に罵言を残し去って行った
     あの時
     とは考えないことにしている
     母は無上の味方だった
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この詩集の「あとがき」で<満八十六歳の誕生日の日に、思い切って詩集を出すことにしました。・・・・・・・>とある。
開業医であり、長らく事故死した人の死因を検証する「監察医」の仕事をされてきた。それに因む作品も多い。
また「与謝蕪村」の研究者としても数冊の著書がある。
平成八年頃からは毎年のように詩集を出されて総計20冊を越える。

         続 大 江 山

     大宮第一小学校に通ずる大きな陸橋
     ときおり生徒の体格検査に通う
     Y町長のとき
     四小学校を合併して発足の計画
     反対 賛成
     いろいろないきさつのあと
     学校は新築された
     何回か通り過ぎた陸橋
     つい最近見つけた
     学校への向って右 南方
     とがった山とへこんだ台地
     子供の頃 見つけた山と
     それは僅か離れた山塊だった
     だが少しかすんだ色調は
     幼時の記憶と全く変りなかった
     いまぼくは母の没年に近く
     山は同じ色あいで立っている
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この詩集には「母」がしきりに出てくる。
「父」も出てくるが、放蕩をして外に女の人を囲ったりしたらしい。そんなことで「母」との暮らしが長かったのだろう。
だから、しきりに「母」を詠んでいる。

         雪 の な か

     今年の大雪
     年齢のせいだから仕方はないが
     僅かながら雪かきをした
     庇の折れる屋根の雪おろし
     こんなことは出来はしない
     遠い昔 幼時の頃
     雪の量はすさまじかった
     細長い四畳の居間
     庇まで雪は重なっていた
     母と二人 雪を眺めていた
     でも母は気を取り直し
     木の棍棒に頭のついた
     全長約三○センチ位
     名前は何と呼ぶのか知らない
     その棒に父の靴下をさしこみ
     頭の部分で針を使い穴の修理をした
     たしか炬燵が横にあったと思うが
     二人とも足を入れていたかどうか
     定かな記憶がない
     雪がよく降るな
     こんな時 火事を起したらどうするのだろう
     母が呟いていた
     ぼくは立ち上って母の背をゆさぶる
     母は
     これこれ
     叱りながに自分の仕事を続けていた
     
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この詩集には全部で21篇の作品が載っている。
いま手元にある詩誌「詩と思想」2012年三月号の現代詩人論に、中原道夫が書いている。

  死とともに生きてきた詩人──谷口謙詩集『大江山』にちなんで・・・・・・・・中原道夫
「医は仁なり」という言葉を聞かなくなって幾久しいが、谷口謙は内にその「仁」を秘めた医師である。
満八十六歳を記念して上梓した詩集『大江山』は谷口にとって十八冊目の詩集となるが、その中にこんな作品がある。

    悲しみを文字にして
    悲しみを和らげることが出来るなら
    雨の窓の前に座り
    いくらでも詩の形を作っていこう
    詩を書くこと
    たしかに卑屈なやすらぎがある
    腕力では 胆力では敵わぬから
    せめて
    詩を書こう

彼の家は、父親の海山も医師。その祖父は峰山藩の儒医ということで、代々医療に生きてきた家系である。
ぼくは十年ほど前、彼の居住地の近くの「天の橋立」の旧い木造建ての旅籠の一室で、わざわざ訪ねてきてくれた谷口と初めて出会ったが、その時、彼はぼくにこんなことを言った。
「二十二歳のとき、桑原武夫の『第二芸術 現代俳句について』を読んで大きな感動を受けました。それ以来、それまで書いていた短歌を捨て、創作、エッセイ、詩にのめりこんだのですが、いま考えてみますと、そのためにかえって遠回りになったみたいで・・・・・」
・・・・・・1960年以降、郷土に係わりのある与謝蕪村の研究に彼を没頭させ、『丹後の蕪村』『蕪村の丹後時代』『与謝蕪村覚書』『蕪村雑稿』『与謝蕪村ノート』『蕪村への道』などのすぐれた著書を上梓するきっかけとなっている。
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まだまだ長いものだが、ここにも書かれている監察医としての経験からの「検視詩集」は八冊を数えるが、今回の『大江山』にも見ることが出来る。

       心 臓 血

     正月直前の夜
     火炎に巻き込まれた
     二歳の女児焼死体を診る
     子犬位の大きさ
     曲げて二本の腕をつき出している
     ボクサー体位
     教科書通り
     半鶏卵大の球体を胸部に露出している
     心臓でしょう
     穿刺をお願いします
     二・五CCの心臓血採取
     これでよろしい
     正月ですが特別契約がしてあります
     府立医大に送ります
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身辺の風景や現象やらを題材にした平易ながら心象に迫まる佳い詩である。
巻末に載る詩を引いて終りにする。

        葉 桜

     雨に濡れて
     葉桜を見に行こうか
     老いらくの春
     とは言うまい
     美しさの名残りがあると
     青い葉たち
     きびしいか
     恐ろしいか
     冷たいか
     そんなものではあるまい
     細い水滴を浴びて              



コメント
コメント
私の幼いときからの主治医でした。
ご紹介有り難う御座います。
御自身は質素な生活をされておられたようで、ことあるごとに地元に寄付をされておられたようです。
2019/06/27(木) 22:24:15 | URL | ぽり #Q0xYRLUA [ 編集 ]
よくお読みいただきました。ずっと以前に頂いた本で、最近は、どうなさっているのか連絡がありません。
> 私の幼いときからの主治医でした。
> ご紹介有り難う御座います。
> 御自身は質素な生活をされておられたようで、ことあるごとに地元に寄付をされておられたようです。
2019/06/28(金) 04:33:23 | URL | 木村草弥 #- [ 編集 ]
Re: よくお読みいただきました。ずっと以前に頂いた本で、最近は、どうなさっているのか連絡がありません。お元気なのでしょうか。お知らせください。有難うございました。
> > 私の幼いときからの主治医でした。
> > ご紹介有り難う御座います。
> > 御自身は質素な生活をされておられたようで、ことあるごとに地元に寄付をされておられたようです。
2019/06/28(金) 04:35:35 | URL | 木村草弥 #- [ 編集 ]
Re: Re: よくお読みいただきました。ずっと以前に頂いた本で、最近は、どうなさっているのか連絡がありません。お元気なのでしょうか。お知らせください。有難うございました。
> > > 私の幼いときからの主治医でした。
> > > ご紹介有り難う御座います。
> > > 御自身は質素な生活をされておられたようで、ことあるごとに地元に寄付をされておられたようです。
2019/06/28(金) 04:37:14 | URL | 木村草弥 #- [ 編集 ]
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