
──新・読書ノート──
『芸術と自由』誌No.282より・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
◆ 新・・・・・・・・・・・・・・・剣持政幸
空白の時間がすぎあのと指せた建物が消えている
道幅の拡張で消されてしまう家屋 百年も経たない新の軽さ
置き去りにされた腕時計弄くられ良いことばかり浮かんでる
純粋に生きるのも良いだろう 枯草へ火を放ち過去を炙り出せ
情熱があることは若さの証明 歌に吐くのは過去の渇きか
短歌とはなに──金子きみが遊びで良いと嘲笑(わら)うだろう
唇が濡れ始め生きることに欲が出てきた 俺も男だったか
膨らみのない腕 筋肉質でない男に寄せる花芯の囁き
生命を育む母胎に吐き出すのはネバネバの戯れ言ばかり
突き刺せる力が欲しい 針のように抉りたい獣の目線
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◆ とにかくの春・・・・・・・・・・・藤原光顕
道を削り穴を穿ち三月は町じゅう春を掘り出している
二月の暦を剥ぐと陽ざしが三月になる うすい汚れも見えてくる
おそらくはそのまま消される 監視カメラへちょっと余分な動きしてみる
一時間に二本のパスが遅れる「遅れるからバス」と言った人もういない
そう言えば一日二本のふるさとのあのバスは今も走っているか
バッグひとつ忘れなければ。財布・鍵・手帳に薬3種類ほど
気がつけば階段の手すり持っている転ばぬ先 のつもりだったが
CECILEのカタログが届く この雨があがれば春が来るという
春 と見上げる雲が花水木の道に続く もう歩くこともないだろう
何もない岬はエリモと思い出すまで しんどい朝が春である
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今日とどいた『芸術と自由』誌No.282より剣持政幸、藤原光顕両氏の作品を引いておく。
剣持政幸氏の作品は、リアリズム・オンリーだった氏には珍しく「比喩」を駆使した表現になっている。
<唇が濡れ始め生きることに欲が出てきた 俺も男だったか
膨らみのない腕 筋肉質でない男に寄せる花芯の囁き
生命を育む母胎に吐き出すのはネバネバの戯れ言ばかり>
の個所などは「暗喩」として秀逸である。 彼の身の上に何かあったのか。
藤原光顕氏の一連は、いつもながらの光顕節として飄逸で、老いの哀歓を表現して面白い。
<<石畳 こぼれてうつる実桜を/拾ふがごとし!/思ひ出づるは・・・・・・・・・・・・・・・土岐善麿 | ホーム | はつなつ の かぜ と なりぬ と みほとけ は をゆび の うれ に ほの しらす らし・・・・・・・・・・・・・・・・・会津八一>>
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