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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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小澤京子歌集『アウトバーン』 抄・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
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──新・読書ノート──

      小澤京子歌集『アウトバーン』 抄・・・・・・・・・・・木村草弥

この本は著者の第二歌集で、二〇〇九年四月二十三日に角川書店から刊行されたものである。
この本の「帯」で所属する同人誌「ぱにあ」主宰者・秋元千恵子が書いている。

<未曾有の大恐慌の風が、日本に波及している今年、団塊の世代の夫君が退職する。
 十七年間の単身赴任を支えてきた著者の、子育て、歌づくり、海外への夫訪いに、与謝 野晶子が重なる。
 取り残された不安と孤独、歳月の葛藤に中で、ひたすらに生き、歌を励まし、歌を変化させながら、第一歌集を超えた。
 『アウトバーン』は、前向きな著者の象徴であり、退職後の夫君と拓く時代を、次の歌集につなぐ、熱い決意である。>

けだし、この歌集を要約する文章として的確である。
以下、私の心に響いた歌を引いておく。

   *高速のバスに揺られて夫を訪う遠距離恋愛の気分にひたり
   *八尾町に長き冬を過ごしいる夫を訪ねて数日おりぬ
   *飴玉をほしがるごとくねだられて夏の一日君と過ごしぬ
   *鉄幹を追う晶子の想いにて太平洋を八時間に飛ぶ
   *夫の住むサンフランシスコの街なかに異人種の中のひとりなるわれ
   *冬空の雲ひとつなき寂しさをメールに打てば一篇のうた
これらの歌には離れ住む夫婦の心の有り様を、ほのぼのと活写しており秀逸である。
   *膝に乗せ末期の水を飲ませたり愛犬ひと声残して逝きぬ
   *身の裡に響きて止まぬ「英雄」は自負と自我との戦う一日
   *粗塩で揉みて輝くらっきょうを甕に眠らす水無月十日
   *独り居の部屋にむかえる友としてたおりて活ける一輪の百合
   *壁に貼るジグソーパズルのスヌーピー欠けておりたり耳のひとつが
   *知っているつもりに怠る匙かげん今日のポトフはちょっぴり辛い
   *天敵とひそかに思う人と会い「ここだけのこと」とりあえず聞く
   *冒険は常に身近にあるものか仕舞いおきたるジーンズを穿く
それらの日々にあっても、生活に、趣味に、歌づくりにと、作者の営為はつづく。
それらの日々に埋没せぬように、作者は人々との交流の中でも、日々新しい。
ここに挙げた歌にあっては、「日常」を「非日常」に転換する心の動きが見られて秀逸だ。
挙げた歌の末尾のものは上句と下句との二物衝撃的な歌づくりが面白くて成功している。
   *湯に浮かぶ身体の軽さ姑の言うひとぉつふたぁつと肩に手を添う
   *失せ物に姑が荒げる声を背に捜す素振りも慣れて十年
   *七草の朝に唐土の鳥鳴かす母が俎叩く音する
「看取り」は大変である。私には嫁、姑の相克の記憶はないが、よく聞くことである。
その代わりに私には亡妻の宿痾との付き合いの数年があったので、ご苦労がよく判る。
夫君の単身赴任の間にも、よく仕えられたのである。
ただ終わりに挙げた歌の「母」は実母の思い出かも知れず、予めお断りしておく。
   *身に積もる毒となるらむ子の放つ我への言葉タリウムならねど
   *かくれんぼ「もういいかい」に「まあだだよ」吾子は戻らず我のみ残る
子離れも、また難しく、哀しいものである。
   *熊野を舞う玉三郎の艶めきて書割りの桜はらりはららぐ
   *平凡な会話がふいに華やぎぬ貴腐ワインに舌あそばせ
そんな日常の中に、このような至福の刻があったりする。そんな一齣を見事に切り取られた。
もっとも後の歌は夫君との外つ国での情景かも知れない。
長い長い夫君の単身赴任も終って、二人仲良く旅を出来るのも楽しいものである。
以下、それらの歌を列挙する。
   *福岡に黄砂舞い来ぬ楼蘭の魔法にかかり夫と腕組む
   *わが夫と山形の酒「初孫」を酌みかわしおり秋の夜長に
   *万里にはまだ余りある日々ならむ長城歩む夫につきて
   *「二十一世紀」デパートを出でグラウンドゼロに佇む
   *車とめローレライの岩に耳澄ます団塊世代の夫と友らと
   *縦横に戦車走りしアウトバーン独裁者ヒットラーの遺産となりぬ
   *ドイツより戻りし身には至福の楽ひねもす雨音聞きて過ごしぬ   
   *市場に買いし林檎は酸っぱいよ遥かなる日の弁当のうさぎ
アトランダムに挙げたので順不同があるかも知れない。
これからは仲良く「旅」を続けてもらいたい。現実の旅も、人生の旅も。

終わりに、一巻を通じて私が一番好きな歌を引いて鑑賞を終る。
「かなしさ」とひらがな書きにしたところが秀逸である。「かなしさ」は「愛(かな)しさ」に通ずる。
佳い歌集を賜り、ほのかな昂ぶりのうちに時間を過ごした。 感謝して筆を措く。

   *木を離るる刹那の花のかなしさよ桜は赤き蕊をふるわす

        
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