
蟇(ひき)歩く到り着く辺のある如く・・・・・・・・・・・・・・中村汀女
ガマは、オタマジャクシの時期以外は、水に入ることはない。
湿気のある草地や土管や床下、穴の中などに棲息し、夕方に出てきてミミズや虫などを捕らえて食べる。
冬は土の中で冬眠するが、2、3月頃一度冬眠から覚めて池に集り、「抱接」して産卵し、また冬眠に戻り4、5月頃に出てくる。
グロテスクで鈍重、動作も緩慢だが、それが自分を思わせるためか、秀句の多い季語である。
掲出した中村汀女の句も、誤解なく読める秀句である。
掲出の一番目の写真はニホンヒキガエルの横顔である。アズマヒキガエルと、どこが違うのか、私には判らない。
二番目の写真は、それを拡大したもの。

盛り上がっている部分が、目のうしろにある耳腺であり、講釈師でおなじみの、ガマの油がたーらりたらーり、という所で、特有の毒液を分泌する。
その右側の平たい〇の部分が「鼓膜」である。

三番目の写真が、浅い水中に産みつけられたヒキガエルの「卵塊」である。
カエル類の卵は、みな紐状のゼラチン質のものに包まれており、中に黒い卵が数百個ないしは数千個入っている。
私はヒキガエルの卵塊は見たことがないが、普通のトノサマガエルやツチガエルなどの卵塊は子供の頃に何回もみたことがある。
カエルの種類によって紐状の太さや長さは、みな違いがある。

四番目の写真が、その卵塊を拡大したもの。管の中の黒い粒粒が卵の1個1個である。
この管状のゼラチン様のものは卵の栄養になるとともに、卵を外界から保護する作用も果たしている。
ヒキガエルの卵1個の大きさは直径6ミリと言われている。
卵の大きさとカエルの成虫の大きさは、やはり成虫の大きさと比例して、大きさに違いがあるようだ。
五番目の写真が卵から孵った「オタマジャクシ」である。
はじめは「外鰓」があるが、じきに外鰓はなくなり、写真のような姿になる。

この後は、後ろ足が出て、前足が出て、だんだんカエルの姿に似て来て、最後に尻尾が取れてカエルの姿になる。
これを「変態」と言うが、このとき水から酸素を得る鰓呼吸から、空気から酸素を得る肺呼吸に替わる。
変態して、すぐの幼体は、形はすっかりカエルの形をしているが、大きさは1円玉に乗るほどの小ささである。
これが大きくなると体長15、20センチにもなるのである。
ヒキガエル、ガマを詠んだ句を引いて終る。
蝿のんで色変りけり蟇・・・・・・・・・・高浜虚子
蟇交む岸を屍の通りをり・・・・・・・・・・中村草田男
てのひらに茶碗の重み蟇鳴くも・・・・・・・・・・大野林火
蟇総身雨具鎧はせて・・・・・・・・・・角川源義
蟇のこゑ沼のおもてをたたくなり・・・・・・・・・・長谷川素逝
蟇出でて一山昏き接心会・・・・・・・・・・中川宋淵
崖下へ捨てし蟇鳴く崖下に・・・・・・・・・・殿村兎糸子
蟇子をうとむとはあらざりき・・・・・・・・・・小林康治
蟇のこゑ一夜鉄塊より重し・・・・・・・・・・目迫秩父
跳ぶ時の内股しろき蟇・・・・・・・・・・能村登四郎
蝦蟇よわれ混沌として存へん・・・・・・・・・・佐藤鬼房
日輪を呑みたる蟇の動きけり・・・・・・・・・・橋間石
蟇鳴いて孤島のやうな大藁屋・・・・・・・・・・成田千空
蟇ほども歩まず山に親しむよ・・・・・・・・・・村越化石
蟇交む川に片肢遊ばせて・・・・・・・・・・福田甲子雄
だぶだぶの皮のなかなる蟇・・・・・・・・・・長谷川櫂
蟇は蟇人は人恋ふ夜なりけり・・・・・・・・・・小沢実
喉袋ふくらみしのみ夜の蟇・・・・・・・・・・奥坂まや
蟇踏んでしまひし夜のわだかまり・・・・・・・・・・大口公恵
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