
雷鳴の一夜のあとの紅蜀葵(こうしよくき)
まぬがれがたく病む人のあり・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第四歌集『嬬恋』(角川書店)に載せたもので、
この歌のすぐ後に
このひとと逢瀬のごとき夜がありただにひそけき睡りを欲りす・・・・・・・・・・・木村草弥
という歌がつづく。病身の亡妻に対する私の気持を詠み込んである。私自身にとっても愛着のある歌群である。
紅蜀葵は和名を「もみじあおい」という。アオイ科の多年草で、北米フロリダ地方の沼沢地が原産という。
日本には明治初期に渡来し、今では広く栽培される。
私の家にも、いつごろ来たのか、今の家に移った時も種を取っておいて蒔いたので毎年夏には、つぎつぎと真紅の花を咲かせる。
茎は数本かたまって直立し1メートルから2メートルに伸び、暑さが本格的になる7月下旬から9月になっても咲きつづける。
葉の形がモミジに似ていることからモミジアオイの名がついた。
鮮紅色の花の色と言い、長い雄しべと言い、どこか異国的な感じがする花である。
花は朝ひらいて夕方には、しおれる。次に咲く花は、蕾の先から少しはなびらの赤色が覗いて、明日あさに開花する。
咲き終わった実は次第に黒褐色になって丸い大粒の種が、ぎっしり入っている。この種が地面に落ちたものは、翌年芽をだすが、余分なものは抜き取られる。
俳句にも、よく詠まれているので、以下、紅蜀葵を詠んだ句を引いておく。
引き寄せてはじき返しぬ紅蜀葵・・・・・・・・高浜虚子
紅蜀葵肘まだとがり乙女達・・・・・・・・中村草田男
花びらの日裏日表紅蜀葵・・・・・・・・高浜年尾
踵でくるり廻りて見せぬ紅蜀葵・・・・・・・・加藤楸邨
一輪の五弁を張りて紅蜀葵・・・・・・・・瀧春一
侘び住みてをり一本の紅蜀葵・・・・・・・・深見けん二
伊那へ越す塩の道あり紅蜀葵・・・・・・・・宮岡計次
夕日もろとも風にはためく紅蜀葵・・・・・・・・きくちつねこ
仏みて夜に日にいろの紅蜀葵・・・・・・・・菊地一雄
紅蜀葵わが血の色と見て愛す・・・・・・・・岡本差知子
紅蜀葵女二人して墓に狎れ・・・・・・・・竹中宏
紅蜀葵籠屋編む竹鳴らしたり・・・・・・・・岡村葉子
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