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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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季刊歌誌「晶」78号から高旨清美・村島典子・山本登志枝─作品・・・・・・・・・木村草弥
晶78

──新・読書ノート──

  季刊歌誌「晶」78号から高旨清美・村島典子・山本登志枝─作品・・・・・・・・・木村草弥

       つばき園・・・・・・・・・・・高旨清美

   田園で音合はせする奏者たちみどりの草木が風に揺れてる
   朝まだき鞄の中をかきまはし何かを探す夢を見てをり
   このトンネル抜ければ更に迷ふべし春の峠に立ちつくしたり
   足が重い重いと野辺を歩きをりたどり来し道ふり返りもせず
   羽の中に顔を埋めて風の日をオホハクテウのひと群ゐたり
   ツピーツピーと鳴く鳥の名を尋ねむと春の日永に図鑑をひらく
   窓近くさくらひらきぬきのふまでかたき蕾と見てゐたる木に
   満開のさくらの花を透かしつつ向かひの干し物はためける見ゆ
   ひよどりと雀が来ては蜜を吸ふさくらに目白は来ぬかこの春
   鵯の去り雀去りたる桜木を夕べの風が吹きわたりゆく
   鵯、雀ら食みて飽きたるさくら木にやがて葉闇のときの来たらむ
   さくら道すこし外れて人をらぬ椿の園のうす闇に入る
   暗緑の葉かげに紅やうす桃の椿ひらきぬ湿りを帯びて
   春疾風吹けり椿の厚らかな花と葉もろとも揉まれてゐたり
   紅椿の満つる木下にをさなき日花心の蜜を嗅ぎてゐたりき
   まなうらにしらしらと花咲き満ちぬかのさくら木のいのちは絶えき
   八重桜と白き椿がほこりかに咲きゐたり春ふかき坪庭
              ※
   いく冊か著書を読みし日思ひつつ吉本隆明との距離をはかりぬ
   隆明の著書コーナーに来て晩年の対談集より一冊を選る
   夜の更けを読みすすめをり老いの日日記しし隆明いかなる心に

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        海人の子・・・・・・・・・・・村島典子

   大寒のひと日ひすがら氷雨ふる風邪引くものは部屋にこもれる
   ショクブツハエライヤッチャ、ワシャシットッタ錢高翁の口真似をせり
   リサ××××とふバイオリニストいま覚えしがいま忘れたり
   喉元のことばひとつを呑み込めず耳鼻咽喉科の椅子に坐しをり
   五番目に受診するわれ四番目のヲバサンの愚痴聞かされて待つ
   口あけて舌の付け根を診られをり嘘も百ほどつきし舌なり
   兄ちやんは泣いてゐますが妹は母の口調に兄を諭せる
   人のする慎ましきことみづうみの貝を煮詰める冬の厨に
   佃煮にたでぼしといふ貝ありぬこの湖の底に出づる星
   冬ごもり春さりくればきらきらと光る山より湖面へ飛ばむ
   過去世より喇叭鳴らしてくるやうに豆腐屋がくる水曜日ごと
   一晩中壁をつたひて雨漏りすその滴滴は血のおとのやう
   家屋もや身体なるべし歳月のなかに老いたり雨漏らせをり
   壊れても直してあげると声に出で告げをり畳に涙する家
   瓦屋は屋根にのぼりて容赦なく降る雨中に雨の巣さぐる
   歳のほど夫に近しとおもほえば屋根に立つ人危ぶむわれは
   雨漏りに慌てる夜の翌朝のほとほと弱しにんげんわれは
   大津波に攫われたりし東北の春のかなしみをこそ汝は思へかし
   おほき息吸つて止めてとたちまちに輪切りにさるる肉叢一躯
   雨の昼の屋根の瓦の上あるく男のふたり外科医のごとし
   瓦屋は梯子に梯子つぎ足して大屋根のぼる天に触るるまで
   犬小屋のまへに坐れば見ゆる星ころんとむかひの屋根の真上に
   よろこびもかなしみもはやはかなくて少なき髪を切りに出かける
   睫毛なき眼をひらく風にむく早春のわれ仮面のごとし
   二両車両のちひさき電車ささなみの長良山麓ことこといゆく
   学生の紺の制服にあふれゐる早春の電車に揺られてゐたり
   戦国のをみなのごとし風をつれ滋賀里、穴太、馬場、坂本
   雛の日の盆梅展の咲きわけの言葉もいまだつぼめるままに
   坂本は竹林院の庭園に木斛の木の陰にをります
   木斛の早春の葉むらに身をかくれ師のことば待つ四年が過ぎぬ
   デキルダケ、ワタシニ似ヌヤウと諭されし昔ありにき鬼子なりにき
   春のうたおもへど歌へず三月はけふもきのふも雪のそらなる
   春の海にうみへびを見し女童は海人の子ぞよろこぶごとし

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         乗換駅・・・・・・・・・・・・山本登志枝

   早春の雨に濡れつつ水に向かふ桜の枝は息づくごとし
   かき寄せておきたる春雪たちまちに流れとなりて坂くだりゆく
   芽吹きゐる猫柳の枝の先に見ゆ白波立ちてやまぬ手賀沼
   ヴァイオリンのかなしき音色がきつかけの訳のわからぬ泪あふれ来
   鳥の言葉に話してゐたのかもしれず分かつてもらへなかつたあのとき
   灯さずにしばらくをゐて気づきたり月光輝く窓のガラスに
   崇徳院がつひに魔王と化すくだりわれが化したるやうに楽しき
   ちりめんの古裂を継ぎて作りたる祖母の座布団にくぼみのありき
   誰ならむ見守りくるるものあるや開きしページには探せる言葉
   ムスカリを咲かせゐる土その土の下の下なるところもこの世
   何時の日かわれも乗りゆく黒塗りの車止まれり桜の樹下に
   ランドセル背負ひ友達と手をつなぎ走りて帰り来少女となれり
   うららかな桜の公園めぐりくる初老の坂も今はゆるやか
   桜咲きて春は爛漫明るめる羊水のなかに胎児覚めゐむ
   散りしける花弁のうへにむきむきの落椿の花くれなゐの花
   はなびらのピンク椿の紅もいのちの色にあれば褪せゆく
   青空の見える乗換駅に着き青空のなか走り始める
   風をゆく男アストル・ピアソラの忌日と思ひ風に目を閉づ
   ジャコメッティより少し太めの影法師先だてて行く西日の坂を 

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