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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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西村美智子『イル・フォルモサ』・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
フォルモサ

──新・読書ノート──

     西村美智子『イル・フォルモサ』・・・・・・・・・・・・・木村草弥
                ・・・・・・・文芸社2012/08/15刊・・・・・・・・

私の友人・西村美智子の本が出た。
前にも『新釈シェイクスピア 神々の偽計』 『無告のいしぶみ』の前著の小説について、ここに書いたことがある。
著者は1940年3月から1946年3月まで台湾に在住したことがある。この期間は彼女の少女期にあたる。
日本が戦争に負けて引き揚げてきたことになるが、上陸地は和歌山県田辺港だったという。
父が京都出身なので以後京都で暮らすことになる。
そういう体験が、この小説執筆の動機になっているようだ。
著者によると「疎開地」が小説と似たような地域だったという類似はあるが、フィクションに終始したという。
この本の「帯」文は図版として読み取れるので繰り返さないが、裏の「帯」には、本文の末尾近くに載る

     <・・・・今から思えばミゼラブルな疎開生活であった
      のに、叢林を歩いたり、夜明け前の星空に向き
      合ったりして、ぼくたちは、呉さんと葉さんから、
      ぼくらが暮らしている地が、イル・フォルモサ、
      麗しの島であることを教えられた。     >

という一節が引かれている。
これこそ彼女の言いたかったことの的確な要約だと言える。

周知のことだが、「イル・フォルモサ」という言葉の由来を書いておく。

16世紀半ばの大航海時代、ポルトガル船が日本への航海中、台湾を発見した船員が「イル・フォルモサ!」(美しい島だ!)と叫んだことから、欧米人には「フォルモサ」とよばれた。その後、オランダ東インド会社により支配が始まり、南部を中心に統治された。北部はフィリピンを統治していたスペインが上陸したが後にフィリピンでの反乱を鎮めるため台湾を離れ、オランダが支配を強化した。1662年、大陸で明朝復興闘争を展開していた鄭成功が台湾に渡り、オランダ勢力を追い払った。ちなみに、鄭成功は九州・平戸の出身で、母は日本人。鄭成功の死後、台湾は清朝の版図に入る。日清戦争後、1895年の下関条約により日本支配が始まり、1945年まで日本統治下に置かれた。戦後、日本は台湾を国連に明渡し、国連は台湾の主権を蒋介石率いる中華民国の主権下においた。

この小説の主人公は、二人の少年──都筑隆史(つづきたかし)と暁野満也(あけのみつや)という昭和七年生まれを縦糸として物語は進行する。
時期は日本が戦争に負けた八月十五日の、天皇の玉音放送を聴く日を前後する戦争末期の台中州彩雲郡叢生庄が舞台である。
隆史の父・信隆は京都でドイツ文学を学んだ学者。満也の父・智満は東京でフランス文学を学んだ学者。
この二人が蓬莱大学に赴任してきたのは昭和六年である。
昭和二十年四月一日、総督府の命によって台湾蓬莱大学人文学部は家族ぐるみの集団疎開を行い、上記の台中州彩雲郡叢生庄の奥地に宿営したのだ。
以来、彼らの集団は四か月半ここに暮らしているのであった。
鰐沢道義教授という国文学専攻の人が居て、この人が国粋主義者の典型として登場している。
人物の描き方に多少の「類型的」なところはあるが、戦争中には、こういう人間が必ず居たので違和感はない。
先に挙げた呉さんと葉さんというのは大学の「副手」で本島人であり、正確には呉進慶、葉銀雁という。
彼らはキリスト教会の信徒で、こっそりと二人の少年のために讃美歌を歌ってくれたりした。

     <荒野の果てに 夕日は落ちて
      妙なる調べ 天より響く
      グローリア イン エクチエルシス デーオー>

小説の真ん中あたりに便所の糞壺に「蛆(うじ)」が大量発生して大騒ぎになるところがあるが、これは「蛆」ではなく、糞便にたかる「賤地虫」(せんちむし)という。
「糞虫」とか「便虫」と呼ばれることもある。
昔の汲み取り式の便所は、関東ではどうか知らないが、関西では「賤地」せんち、と言った。
子供の頃から「せんち」とはどういう字を書くのだろうと思っていたが、汚い、賤しい場所という漢語だと後年になってから知った。
人や獣の便に取りついて食べたり卵を産んだりする虫に「センチコガネ」というのが居るが、れっきとした学術的な虫の名前になっている。
ファーブル『昆虫記』に描かれる「フンコロガシ」なども、それらの一種である。「蛆」と称する虫は、もっと小さな虫であり、死体などに湧くものを指す。
便所の糞尿の汲み取りなどは、私たちの育った田舎の小学校では上級生が汲み取るのが普通だった。
学校には付属の畑があり、その一角に糞便を溜める「肥(こえ)だめ」があって、そこでよく腐敗させたものを水で薄めて「下肥」として肥料にされた。
人の大腸には寄生虫が発生しやすく、それらは「回虫」「蟯虫」などが主なものだが、その卵が糞便に混じって出て、それが肥料として野菜などにまみれて、
それを食べた人から体内に入って悪さをするという「循環」が生じた。
だから学校では「虫下し」として何という名前だったか「海藻」を煎じたもの、そう私たちの辺りでは「まくり」と呼ぶものを呑まされた。
呑みにくいもので、水で薄めて飲みこんだりしたものだ。 この本のこの一節から、そんなことを思い出した。

巻末の一節は、<イル・フォルモサ──エピローグに代えて>と題されて、あれから六十六年後に、都筑隆史から暁野満也に充てたメール文となっている。
この辺のところが今どきの情景にぴったりで、面白い。
戦後、台湾には本土から国民政府軍が進駐してきて、本島人──台湾人を圧迫し、「ニ二八事件」という台湾自治をめぐるデモと、それに対する虐殺が起きる。
これらは今につづく台湾の国民政府と民進党に繋がるもので、今日的である。

この本は発刊前に著者からいただいていたのだが、発行日が今日になっているのに合わせて、今日付けで載せる。
一般書店にも配本されているというから買っていただきたい。
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この本は、先に書いたように全国の本屋に配本されているようで、ぼつぼつ売れ始めているらしい。
「イル・フォルモサ」で検索すると千単位のものがヒットするから、ネッチアンにはよく売れるだろう。
アマゾンの書評欄に載るものから二つ引いてみる。

5つ星のうち 5.0 台湾で終戦を迎えた彼らは、その時何を思ったのか?, 2012/8/2  By ミント -

終戦から67年。戦争を知らない日本人が大半を占める現在。経験者でしか分からない、その時代の空気を伝える貴重な本です。
主人公の少年、隆史から見た人々は、どこかに必ず居そうなキャラクターです。
人格者であるが、敗戦で価値観を根底から覆され、苦悩する父、信隆。子供の様に依存心が強く、自己中心的だが、正直な母、幸子。
なんでも器用にこなす同級生、満也。常に高圧的かつ独善的で、威張っているが、危険が迫ると自分だけ逃げようとする鰐澤教授など。
戦争の最中にも日常があり、台湾人の少年との心の交流も描かれています。
戦争経験者は、また別な思いを抱かれるでしょうが、私は、人間が苦境に立った時、どう感じ、どう行動し、どう変わるのか、という部分を、大変興味深く読みました。
幅広い年代の方に、お勧めしたい本です。
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五つ星のうち 5.0 戦時下の台湾の疎開地の生活がリアルに描かれている, 2012/8/13
By 九条憲子 "憲ちゃん" (城陽市) -

戦時下の台湾で、皇国臣民として生きようとしていた、中学生の隆史と満也
しかし呉さんや、葉さんの出会いによって、天皇が神と信じこんでいた少年
たちに疑問がわいたのではないか。その呉さん、葉さんも、のちに228事
件により、蒋介石政府に虐殺されたかもしれない。物の言えない時代、
すべての国民がいわゆる洗脳されてしまう恐ろしさを感じた。
信隆、幸子夫婦の家庭生活は魅力がある。その時代にこれほど民主的な夫はすばらしい。
幸子も時代の流れに迎合しない生き方をしたということを強調してほしかった。家事
が上手な主婦は当たり前な時代だったと思うのです。台湾へ関心を深める一歩となる
素晴らしい作品だった。
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一番後のコメンテーターが、私と同じ市に住んでいるのを見て、かなり広く読まれていると感じた。
たくさん売れることを期待して、筆を置く。



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