
寒菊も黄を寄せ合へばさみしからず
さ庭の隅のひだまりの中・・・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第四歌集『嬬恋』(角川書店)に載るものである。
「寒菊」というのには、特別に品種があるわけではなく、初冬に咲く晩生の菊をまとめて言っているようである。ここに掲げたものは黄色であるが、白色もあれば淡藍色のものもある。

写真②のものは白い色をしている。これも寒菊の一種とされている。
私の歌は寒さの中に、けなげに咲く寒菊に寄せて、私の心象を盛ったもので、単なる写生と受け取ってもらっては、困る。
古い俳句を見てみると
寒菊や粉糠のかかる臼の端・・・・・・・芭蕉
泣く中に寒菊ひとり耐(こた)へたり・・・・・・・・嵐雪
寒菊や日の照る村の片ほとり・・・・・・・・蕪村
寒菊や臼の目切りがぼんのくぼ・・・・・・・・一茶
などの作品がある。
冬の景物には「ものがなしさ」の心象が盛られることが多い。寒菊も、同様である。
以下、寒菊を詠った句を引いておきたい。
寒菊を憐みよりて剪りにけり・・・・・・・・高浜虚子
寒菊の雪をはらふも別れかな・・・・・・・・室生犀星
寒菊や世にうときゆゑ仕合せに・・・・・・・・岩木躑躅
弱りつつ当りゐる日や冬の菊・・・・・・・・日野草城
冬菊のまとふはおのがひかりのみ・・・・・・・・水原秋桜子
寒菊の霜を払つて剪りにけり・・・・・・・・富安風生
寒菊や母のやうなる見舞妻・・・・・・・・石田波郷
わが手向(たむけ)冬菊の朱を地に点ず・・・・・・・・橋本多佳子
冬菊の乱るる色を濃くしたる・・・・・・・・鹿野佳子
寒菊の空の蒼さを身にまとひ・・・・・・・・渡辺向日葵
寒菊や耳をゆたかに老い給へ・・・・・・・・越高飛騨男
冬菊の括られてまたひと盛り・・・・・・・・横沢放川
| ホーム |