
──草弥第五歌集『昭和』──批評
木村草弥歌集『昭和』読後感・・・・・・・・・・・・・高橋初枝
・・・・・・・・短歌結社誌「純林」2012/11月号掲載・・・・・・・
この歌集は2012年の春に、角川書店から上梓された第五歌集である。
最後の歌集を上梓してから9年の歲月が経ったが、この間に最愛の奥様の介護に忙殺され、
そしてその甲斐もなくお亡くなりになられた。
氏は短歌歌誌「未来」「地中海」「新短歌」「未来山脈」「角川短歌」「草の領域」などに亘って発表され、
そのために短歌の数としては490首に達した。
*わが生はおほよそを昭和といふ期に過ごししなりな青春、玄冬
とあるように、生涯の大半を「昭和」という年号と共に過ごしたことになるので歌集名を『昭和』としたとある。
青春、玄冬に、激動の昭和を生き抜いてこられた作者像が浮かぶ。
*きみ去りて宙ぶらりんの想ひとつ熟れ麦にほふ真昼なりけり
*明けやすく淡きみどりの玻璃かげに妻は起き出で水働きす
*うらうらと晴れあがりたる昼さがりもう夏だわねと妻のつぶやく
*妻呼ぶに愛称「弥ぃちやん」久しくも呼ばざりしこと不意に憶ひぬ
*愛しさは遠浅なして満ちくるを木蓮の花は昼黙しをり
さりげなく控え目な、亡き妻を恋う眼差しが愛おしい。
*ゲルマンの民を東西に分けゐたる「壁」残す遗跡と五百メートル
*門上の勝利の女神とカドリガは統一なれる菩提樹を見放く
*イシュタルの門の獅子たち何おもふ異国の地にぞその藍の濃き
*指呼すればアウシュビッツ見ゆサリンもてシオンの民の命奪ひし
*皮一枚思想一枚くらやみに悪夢のごとしビン・ラディン斃る ─2011秋─
東欧紀行など外国の旅行詠も多く見られ、歴史を踏まえた確かな眼が自在に飛翔していく。
*花籠を垂るる朝顔一輪の朝の茶の湯の夏茶碗晳し
*萩の碗に新茶を吞めば今宵はや八十八夜を二夜三夜過ぐ
作者は京都で家業の宇治茶問屋を経営していたが、今はリタイアしている。京都のはんなりした風情がただよう。
*日々あゆむ我が散歩みち歩数計が八千五百を示せば戻る
*方形の青田つづける目路の果て水は光れど明日は見えず
*わがいのち知り得ぬ日々のあけくれに山吹散りぬ空海忌けふ
老いに溺れず充足していない作者は、昨年の東日本大震災を、同時代を生きた者として、
28連からなる鎮魂の「プロメ —テウスの火」として、長歌と散文を記録された。
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「純林」は塩野崎宏氏の編集する月刊の短歌結社誌である。
今回執筆いただいた高橋初枝氏は、その編集委員をなさっている。
拙歌集を、よく読み込んでいただいて、ご懇篤な批評をして下さった。
心より厚く感謝申し上げ、ここに全文を掲載して御礼といたしたい。有難うございました。
(お断り)
本文は原稿をスキャナで読み込んだので、文字化けが生じる。子細に訂正したが、まだあれば指摘いただきたい。
すぐに直します。 よろしく。
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