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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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福岡伸一『ルリボシカミキリの青』・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
ルリボシ

──新・読書ノート──

     福岡伸一『ルリボシカミキリの青』・・・・・・・・・・・・木村草弥
             ・・・・・・・・文芸春秋社2010第一刷2012/01/15第三刷・・・・・・・・・・

本書は「週刊文春」に連載中のコラム「福岡ハカセのパラレルターン・パラドクス」の最初から七十回分ほどを再構成したものである。
先日から福岡伸一の本を集中的に読んでいるので、今日は、この本である。豊富な研究、知識を素人にも分かるように平易に書いてあり、よく判る。
この本の題名になっている、巻末に載る部分を引いておく。

ルリボシカミキリの青
福岡ハカセの好きな色は青。よく利用する二子玉川の駅は、ホームがとても高い位置にあり、
おまけに多摩川に向って大きくせり出している。端の方にいくと視界が開け、上流から下流まで
多摩川のきらきらした流れと広い河川敷が一望のもとに見渡せる。川風に吹かれる。こんなに開
放感あふれる駅が他にあるだろうか。
今日の空は、高く澄んで雲ひとつない。東京にもこんな青がある。西の方を眺めると、丹沢山
系の稜線の淡い青が連なっている。その向こうにくっきりと白い富士山が頭を出している。
フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」がまいているターバンの青。このつややかな青は、フ
エルメールがこの絵を描いたときから三百五十年を経た今も、ほとんど色褪せていない。なぜか。
細かく砕いた宝石で描かれているからである。フェルメールはこの青色を描きだすために高価な
ラピスラズリを用いた。
ラピスラズリは、アフガニスタン奥地の山峡に産出される青い宝石。ツタンカーメンのマスク
にはめ込まれるなど紀元前三千年の昔から高貴で希少なものとして珍重されてきた。その価値は
金と並び称され、時には純金よりも高かった。フェルメールは、このラビスラズリの粉を惜しげ
もなく使って、少女のターバンの青を塗った。
『青の歴史』(ミツシェル・パストゥロー著、筑摩書房)というとても面白い本がある。スカイブル
ー、マリンブルー。今日、青は、さわやかで、若々しく、美しいイメージの色となっている。だ
が、昔からそうだったわけではない。古代ローマ・ギリシャ時代には青は、蛮族が好む野卑で不
快な色だったという。それが絵の具としてのラピスラズリの利用などによって、聖母マリアを描
くときの衣装の色となり、高貴な雰囲気を帯びていく。技術的にも青を出すために、さまざまな
顔料や染料が求められ、工夫され、発展していった。やがて青は、フランスの三色旗の自由を象
徴する色となり、ジーンズを染める色になってポピュラーな人気を勝ち得る。特殊な青の色素に
は特許が出願されるまでになった。そういえば、この本にはないけれど、青色発光ダイオードは
確かに特許技術である(おしむらくは、原著のカラ—図版の大半が邦訳ではモノクロ掲載だとい
うこと。色の本なのだからもっと贅沢に作ってほしかった)。
でも、福岡ハカセがもっともあこがれた青は、空の青さでもなく、海の青さでもなかった。フ
エルメール・ブルーでもない。それはルリボシカミキリの青だった。ビロードのような輝きをた
たえた深い青。それは塗られた青ではなく、金属のように内部から放たれる青。こんな青はフェ
ルメールだって作りだすことができない。その青の上に、くっきりとしも漆黒の斑紋が散ってい
る。長く優美に伸びる触角。そこにも青と黒が交互におかれている。あきるほど図鑑で眺め、ず
っと恋い焦がれた。一度でいいから実物がみたい。何日も、何シーズンも、野山をさまよった。
しかしこの小さなカミキリムシを採集することはできなかった。
ある年の夏の終わり、楢の倒木の横を通り過ぎたとき、目の隅に何かがとまった。音を立てな
いようゆっくりと向きをかえた。朽ちかけた木の襞に、ルリボシカミキリがすっとのっていた。
嘘だと思えた。しかしその青は息がとまるほど美しかった。しかも見る角度によって青はさざ波
のように淡く濃く変化する。それは福岡ハカセがハカセになるまえの、まぎれもないセンス・オ
ブ・ワンダーの瞬間だった。こんな青さがなぜこの世界に存在しているのだろう。
福岡ハカセがハカセになったあと、ずっと続けてきたことも基本的には同じ問いかけなのだと
思う。こんな鮮やかさがなぜこの世界に必要なのか。いや、おそらく私がすべきなのは、問いに
答えることではなく、それを言祝(ことほ)ぐことなのかもしれない。
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全部を引くことは出来ないので、こういう内容だということで「目次」を載せておく。

プロローグ

第一章 ハカセの研究最前線

放蕩息子の帰還
ミールワームの大仕事
謎の物質の物語
空目
超難問への道
GP2の謎

第二章 ハカセはいかにつくられたか
海のおばけ
はらぺこあおむしの想い出
スズメバチとの邂逅
百名山
シガコン奇譚
少年ハカセの新種発見
料理修業
鳩山議員と蝶の美しさ
ボストンの優雅な休日
光陰矢のごとし仮説

第三章 ハカセをいかに育てるか
新学期の憂鬱
健全なる懐疑心を!
語りかけるべきこと
先輩から後辇へ
ものづくりの未来
鈴木少年の大発見
高校生たちのまなざし
入試問題頻出著者
出題者の悪夢
恥多き物書き
才能の萌芽
プロセス・オブ・パラレルターン

第四章 理科的生活
狂牛病は終わってない
コラーゲンの正体
神隠し殺人事件の一考察
なぜ私たちは太るのか
天才は遗伝するか?
アサギマダラの謎
ある「わらしベ長者」伝
ほたてとえびのあいだ
そばvs.うどん
エコ力ーデビュー
ロハス・スパイラル

第五章 『IQ84』のゲノムを解読する
『1Q84』と生物学者
夏空の日食
自殺急増の真の意味
金印の由来
卑弥呼の墓!?
活字の未来
虫の虫、鉄の虫、本の虫
紙をめくる感覚

第六章 私はなぜ「わたし」なのか?
わたくし率
トポロジー感覚
「脳始」問題
日本一高い家賃
風鈴と脳とホ夕ル
全体は部分の総和?
なつかしさとは何か
一九七〇年のノス夕ルジー

第七章 ルリボシカミキリの青
プラークコントロリアンの襲来
霧にかすむサミット
臓器移植法改正への危惧
花粉症から見える自己
花粉を止めたい!
文楽の生物学
ハチミツの秘密
ミツバチの実りなき秋
数学の矛盾
生命の不完全性定理
ルリボシカミキリの青

エピローグ



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