
立春の風は茶原を吹きわたり
影絵となりて鶸(ひは)たつ真昼・・・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌の前に
立春の茶畑の土にくつきりと生命線のごと日脚のびたり
という歌が載っている。これらは私の第二歌集『嘉木』(角川書店)に載るものである。
普通、「ヒワ」と呼んでいるが正しくは「カワラヒワ」というらしい。写真がそれである。
漢字で書くと「鶸」という字で、スズメくらいの大きさで、羽を広げたときの鮮やかな黄色がめだつ鳥である。
この鳥は「留鳥」ということであり、繁殖期以外は集団で行動する。
私の方の茶園は木津川の河川敷にあり、今ころになると茶畑でよく見られる。
私の第一歌集『茶の四季』(角川書店)の中にも
野分のなか拝むかたちに鍬振りて冬木となれる茶畝たがやす
固き芽の茶の畝耕し寒肥(かんごえ)を施(や)れば二月の風光るなり
という歌が載っている。これらも掲出歌と同じ時期を詠んだものである。
昨日は「立春」だった。昔の人が「春立つ」と季節分けした日が来たのである。
今年は一月は、ずっと寒かった。
二月の声を聞くと、そんな寒さが嘘のように日中は最高気温も10度を越えて12、3度を示すようになった。
さすがに朝晩は寒く、田園地帯では、まだ結氷も見られる昨今である。
「大寒」が1月20日ころで、節分、立春というと名前とは裏腹に一年でも、最も寒い頃であるが、さすがに季節は争えないもので、
「光」が全くちがって来て、光量が豊かになってきたという実感がするのである。これらは野良で、実際に日光を浴びたものでないと実感は出来ないかも知れない。
この頃になると「日の出」の時刻は冬至の頃に比べても十数分早くなった程度だが、
「日の入り」は、ずっと遅くなって、冬至の頃に比べると一時間半ほどは太陽が長く照っている。
「春の日は暮れそうで暮れない」という言葉が昔からある。
私の歌群は、そういう季節感を実生活に則して詠んだものである。

↑ 掲出した私の歌の場面を写真にすると、こういう写真になる(撮影はM.N氏)。
以下、ヒワを詠んだ句を引いて終わる。 なおヒワは秋の季語である。
鶸鳴くや杉の梢に日の残り・・・・・・・・柏後
砂丘よりかぶさつて来ぬ鶸のむれ・・・・・・・・鈴木花蓑
鶸渡り群山こぞり山を出づ・・・・・・・・相馬遷子
北の空暗し暗しと鶸が鳴く・・・・・・・・飯田龍太
鶸渡る建てしばかりの墓の辺を・・・・・・・・飯田龍太
大たわみ大たわみして鶸わたる・・・・・・・・上村占魚
鶸渡る比叡へ流るる霧に乗り・・・・・・・・鈴間斗史
つと飛びし真鶸高らに天がける・・・・・・・・今牧茘枝
鶸渡る雨の峠の草伝ひ・・・・・・・・堀口星眠
さざめきのありて真鶸の枝うつり・・・・・・・・斎藤夏風
群れし鶸田の土を舐め木に散りぬ・・・・・・・・城取信平
風と来てオロフレ山に鶸の声・・・・・・・・長谷川草洲
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