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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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茶に馴染む八十八夜のあとやさき緑の闇に抱かれて寝る・・・木村草弥
茶園

  茶に馴染む八十八夜のあとやさき
   緑の闇に抱(いだ)かれて寝る・・・・・・・・・・・・木村 草弥


お茶の生産というか製造というのは、いわば特殊な業態で一般の人には馴染みがないと思うが、5月は日本では「お茶摘み」のシーズンである。
茶の製造に関する他人の歌をと思ったが皆無に近いので、お茶の専門家である私の旧作を、今回は披露することにした。何を隠そう、私の本業は茶──その中でも「宇治茶」の産地問屋である。もう引退したが70歳まで現役で仕事をしていた。

掲出の歌は短歌をはじめて間もなくの頃の作品で、或る結社誌に載ったとき批評欄で採り上げて褒めてもらった印象深い歌である。産地ではお茶畑が広がり、私の感じでは、この歌に詠んだような気分を、新茶時期になるとみんな持って寝に就くのである。緑の葉っぱの香り、製茶工場の焙炉(ほいろ)の香ばしい匂いが、辺り一面に漂っているのが我が故郷である。場所としては京都と奈良の中間で、歴史的にも古くから渡来人たちが住み着いて日本の文明の夜明けとともに開けてきた土地である。
掲出の写真①は、いわゆる「鋏刈り」という茶園で動力鋏で茶を刈り込んで行く。

木津川堤 004

写真②は玉露や抹茶原料の碾(てん)茶を採る「覆下」園というもので、ご覧のように黒い化学繊維の布で覆ってある。昔は葭簾(よしず)を掛けて、その上に菰を敷き、さらに藁をさばいて振りかけていたものである。何故このようなことをするのか、というと経験的にやられてきたことだが、今の科学的研究の結果、日光を遮断することにより、肥料成分が「テアニン」(アミノ酸系の化合物)という旨み成分に転化して茶の葉に集中することが実証されたのである。私の住む村では、みな「覆下園」であり、昔から宇治茶の玉露・抹茶という高級茶の産地だった。写真②は私の地域の木津川の畔の茶園である。覆いがしてあるので、写真的には絵にならない。

ここで私の茶にまつわる旧作を第一歌集『茶の四季』、第二歌集『嘉木』(いずれも角川書店刊)から引用する。
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茶の村のつづく限りを風光りわれの茶園は陽炎(かぎろ)ひてをり・・・・・・・・木村草弥

茶の木の芽一葉一葉が眩しくて逃るるごとく瞳(め)を瞑(つむ)りゐつ

ふつふつと茶の呟きをまとひつつ風はみどりを笛にして過ぐ

葉桜の翳(かげ)る座敷に滴りの思ひをこらし利茶(ききちゃ)をふふむ

火炉出づる真みどりの葉はまぎれなく我らがひたすら培(そだ)てし碾茶

遠赤外線の火を入れをればかぐはしき新芽の匂ひ作業場に満つ

さまざまの機械あれども抹茶挽く石臼に勝る道具なきなり

定温の零度の気温保たれて冷蔵倉庫に茶は熟成す

香に立ちて黒楽の碗に満ちてゐる蒼き茶の彩(いろ)わが腑を洗へ

明日のため見ておく初夏の夕焼は茶摘みの季の農夫の祈り

揉みあがる新茶の温み掌にとれば溢るる想ひ思慕のごとしも

汗あえて茶を刈る時にそぼつ身を女神のごとき風通るなり

明け暮れをお茶に仕へし一日は抗ひがたく眠りにぞ落つ

汲みあげて散華の雫となすべけれ茶祖まつる碑に秋日が暑く

茶の香りほのかににほふ内陣に茶祖の語録の軸かかげらる

たそがれて皆居なくなる茶の花の夕べを妻はひとりごつなり

桃香野の茶の香にまなこ細めたる父ゐたりけり、月ぞかかれな

「おーい、お茶」缶ドリンクがごろりんと自販機の穴から出づる便利さ

ビタミンC添加したれば酸化防止できると知りて茶ドリンク奔流

流通の様変りして「茶葉」ならぬ「液体の茶」に苦しめられつ

コーヒーに負けるのならばまだ許せる緑茶ドリンクにお茶商負けるな

「南方の嘉木」と称(よ)びし陸羽はも常葉のいろを慈しみにけむ
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昔の中国の『茶経』という本の著者・陸羽は茶の製法や嗜み方について探求した人だが、その本の冒頭で、茶の木のことを「南方の嘉木なり」と説いた。 これは茶の道に携わる者のバイブルみたいなもので、私の第二歌集を『嘉木』とした所以である。


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