
泰山木の巨き白花さく下に
マタイ受難曲ひびく夕ぐれ・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第二歌集『嘉木』(角川書店)にのるものである。
この歌の一つ前には
おほどかに泰山木の咲きいでていきなり管楽器鳴りいづるなり
という歌が載っているので、これと一体として鑑賞してもらいたい。
泰山木の木は葉も花も大きいもので、葉は肉厚で落葉は昔の大判の貨幣のようである。この頃には「青嵐」という季語もあるように季節の変わり目で突風が吹くことが多いが、そんな風に吹かれて泰山木の大きな落葉が新芽にとって代られて、からからと転がってゆく様子は季節ならではのものである。
モクレン科の常緑高木であって、高いものは17、8メートルにもなる。北アメリカの原産で明治のはじめに日本に渡来し公園などに植えられた。葉はシャクナゲに似、花はモクレンに似ている。花は葉の上に出て、大きさは15センチもある。木が大きく、葉も花も大きいので「泰山木」という命名がいかにも相応しい感じがする。花の雄大さと白い色、高い香りが焦点である。
私の歌は、そういう、いかにも西洋風な花と木に触発されて、「管弦楽」ないしは「マタイ受難曲」という洋楽を配してみたが、いかがであろうか。
俳句にも詠まれているので、それを引いて終わりたい。
壺に咲いて奉書の白さ泰山木・・・・・・・・渡辺水巴
磔像や泰山木は花終んぬ・・・・・・・・山口誓子
太陽と泰山木と讃へたり・・・・・・・・阿波野青畝
泰山木天にひらきて雨を受く・・・・・・・・山口青邨
泰山木巨らかに息安らかに・・・・・・・・石田波郷
泰山木樹頭の花を日に捧ぐ・・・・・・・・福田寥汀
ロダンの首泰山木は花得たり・・・・・・・・角川源義
泰山木開くに見入る仏像ほし・・・・・・・・加藤知世子
泰山木君臨し咲く波郷居は・・・・・・・・及川貞
初咲きの泰山木に晴れつづく・・・・・・・・武内夏子
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