
楢の木の樹液もとめて這ふ百足(むかで)
足一本も遊ばさず来る・・・・・・・・・・・木村草弥
この歌は私の第一歌集『茶の四季』(角川書店)に載るもので自選にも採っているのでWebのHPでもご覧いただける。
百足(むかで)というのは噛まれるとひどく痛い害虫で、気持の悪い虫だが、樹木の茂る辺りから梅雨から夏にかけて住宅の中にまで侵入してくるから始末が悪い。
朝起きると枕元に大きなムカデが居て、ギョッとして大騒ぎになることがある。噛まれなかってよかった、ということになる。
以前住んでいた家は雑木林がすぐ近くにあったので夏にはムカデがよく家の中に入って来たものだ。
ムカデは節足動物だが、ムカデ綱に属する種類のうち、ゲジ目を除いた種類の総称で、日本には1300種類も居るという。
写真はトビズムカデという名前の百足である。写真を見て「おぞましい」と思う人は見ないでもらいたい。卒倒されたら困る。
このように気持の悪い虫だが、私の歌にある通り、ナラやクヌギなどの里山には、カブトムシなどと争って木の樹液を求めて出てきたりするのである。
ムカデにも肉食と、樹液などを吸いに来るものと二種類いるそうである。
私の歌は、そういう樹液に群がるムカデを詠んでいる。
ムカデの動きを観察していると、私の歌の通り、あの多くの足をからませることもなく、すすすすと進んで来るのである。だから私は「足一本も遊ばさず来る」と表現してみた。
先に「害虫」だと書いたが、昔から、ものの本によるとムカデは「益虫」だと書いてあるという。
ムカデは百足虫とも、また難しい字で「蜈蚣」とも書いて、いずれもムカデと訓(よ)ませる。
蜈蚣をも書は益虫となしをれり・・・・・・・・相生垣瓜人
という句にもある通りである。
以下、歳時記に載るムカデの句を引いて終わりたい。
小百足を打つたる朱(あけ)の枕かな・・・・・・・・日野草城
硬き声聞ゆ蜈蚣を殺すなり・・・・・・・・相生垣瓜人
夕刊におさへて殺す百足虫の子・・・・・・・・富安風生
百足虫出づ海荒るる夜に堪へがたく・・・・・・・・山口誓子
ひげを剃り百足虫を殺し外出す・・・・・・・・西東三鬼
殺さんとすれば百足も動顚す・・・・・・・・百合山羽公
壁走る百足虫殺さむ蝋燭火・・・・・・・・石塚友二
なにもせぬ百足虫の赤き頭をつぶす・・・・・・・・古屋秀雄
三四日ぐづつく雨に百足虫出づ・・・・・・・・上村占魚
殺したる百足虫を更に寸断す・・・・・・・・山口波津女
百足虫出て父荒縄のごと老いし・・・・・・・・大隈チサ子
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