
──村島典子の歌──(14)
村島典子の歌「花矢倉」35首・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
花矢倉 村島典子
雨あとの地の面に落ちて大きなる鴉の尾羽くろぐろとして
球根を土に埋めてゐるひとは密議めきをり俯きてをり
厳冬の地中にいのち育めと数へつつ埋む来る春のため
なんといふ楽しいひと日柿の木にのぼりて下りて遊びせむとや
向き合ひて渋柿を剝くもくもくと日ごと数へし二百個がほど
柿二百個剥きて吊してこの日暮ふゆの暮しの儀式となさむ
雨にぬれし紅葉黄葉を踏みゆくはかの世へかかる橋ゆくごとし
足元ゆ雨は降りくる暮れ方といふには早き長等山の峰
暗きくらき山の石段ふみのぼりまた踏みくだり雨中をゆく
こんなにも疲れ果てたる日の暮も夕餉つくると立ち上がりたり
*
河ふたつ越えてゆくベし人の待つ吉野大淀しぐれてあらむ
未来すらたちまち過ぎむ窓そとのひつぢ田見つつ運ばれてゆく
けさの雨やみて川辺にたつ霧の異界へいゆくわれと思へよ
夜半すぎて屋根に来し雨ざんざんと降れば旅寝のいよいよ淋し
さくら紅葉散り敷く山へ急坂をみちびかれゆく金峰山寺へ
山林抖擻するにあらなくひたすらに奧駈みちの登り口に来つ
まぼろしの声きく喑きまひるまの懺悔懺悔六根清浄
なつかしき人に会ふごと開扉の奧の憤怒の像にまみゆる
ことば呑み呼吸を忘れあふぎをり青き憤怒の蔵王権現
真上よりするどき眼光降りきたりたちまちにして金縛り受く
まぼろしの花咲く山を思ひみよ人と訣れし日の花矢倉
紅葉はしみてかなしも尾根に棲む暮しのめぐりしぐれに濡れつ
しとしとと時雨の音を忍ばせてわれと人とを逢はしめたまへ
春さればかの世も花の咲くならむ花のもとにて逢はむと約す
ああわれに歌の師のあり今生にいさかひをせし師のおはしけり
紅葉するこの世のゆふベまろき碑(いし)やまとくんなか眺め坐しませ
あしひきの秋野の山はあのあたり背をまもられて青き石文
老い木なるしだれ桜の冬の枝に雨滴は銀の玉を咲かせたり
水分(みくまり)のやしろに人の絶ゆるとき桧皮の屋根に月しろかかる
うぶぎぬの赤子の襦袢月光をあびてゐたらむ子守の社
*
独り言つぶやきにつつ橋わたる七つの橋を七たぴわたる
湯たんぼをふたつ購ふ冬されば温き寝床にふゆごもりせむ
合図なく逝きたりしひと君らしく死を死ににけむわたしを置きて
老犬も毛布をかけてねむりたり初冬の雨夜のさびしかりけり
取り残したる渋柿の実に鵯がきて枝ゆさぶりて一つ落しつ
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届けられた「晶」81号に載る村島典子さんの歌である。
いつもながら見事な詠いぶりである。 ご鑑賞いただきたい。
なお、これはスキャナで取り入れたので、どうしても文字化けが生じる。 子細に修正したが、まだあれば指摘してください。すぐに直します。
ご恵贈に感謝して筆を置く。
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