
星に死のあると知る時、まして人に
快楽(けらく)ののちの死、無花果熟す・・・・・・・・・木村草弥
無花果(いちじく)はアラビア原産で、江戸時代に日本に入ってきたという。
私の住む辺りでも、田圃に畔(くろ)を作って土を盛り上げ、無花果を作っている。無花果と書くが、花がないわけではなく、これは中国名のインジェクフォが訛って、こうなったという。
イチジクの木は放置すると3メートルから6メートルにも達する落葉喬木であるが、
日本では栽培する木は収穫し易いように1メートルくらいの高さで枝を横に整枝する。
実は新しい枝に生るので、冬には徹底して旧徒長枝を切り詰める。

写真②のように多くの実が生るが、生育のよいものを残して摘果する。八月下旬頃から実が熟しはじめ10月頃まで生る。軟弱果実であり、痛み易い。
アラビア原産ということだが、アダムとイブが蛇にそそのかされて「禁断の木の実」を食べたというのが、このイチジクである。
事実、中東ではイチジクが多い。向うも暑い土地なので、生食というよりも「乾燥いちじく」として多くが売られている。

写真③が乾燥させたイチジクである。ギリシア、トルコ、イスラエルなどに行くと、いたるところで売られている。
フニャフニャに柔かくはなく、噛み応えのあるドライフルーツである。日本にもドライいちじくの形で輸入されている。
品質にはピンからキリまであり、一流の取り扱い店のものは、おいしい。私も向うへ行ったときは何度も買って帰った。
なお、中東産のドライいちじくは皮の色が白い品種で、日本でみられる皮の黒いものとは品種が違うので念のため。
掲出の歌は、私の第二歌集『嘉木』(角川書店)に載せたもので、Web上でもご覧いただける。

写真④が箱詰めされて商品として出荷される生イチジクである。生食としては1、2日しか日持ちしない。
熟しすぎたものはいちじくジャムとして食べても、おいしいものである。
以下、歳時記から無花果の句を引いて終りにする。
無花果の古江を舟のすべり来し・・・・・・・・高浜虚子
乳牛に無花果熟るる日南かな・・・・・・・・飯田蛇笏
いちじくのけふの実二つたべにけり・・・・・・・・日野草城
無花果のゆたかに実る水の上・・・・・・・・山口誓子
天地(あめつち)に無花果ほどの賑はひあり・・・・・・・・永田耕衣
雑念満ちゐたりいちじくを開き食ふ・・・・・・・・桂信子
蜂が吸ふいちじく人は瞬時も老ゆ・・・・・・・・細見綾子
無花果や目の端に母老いたまふ・・・・・・・・加藤楸邨
無花果や永久に貧しき使徒の裔・・・・・・・・景山旬吉
無花果にパンツ一つの明るさ立つ・・・・・・・・平畑静塔
無花果食べ妻は母親ざかりなり・・・・・・・・堀内薫
日本海黒無花果に無言なり・・・・・・・・黒田桜の園
| ホーム |