
きりぎりす腸(わた)の底より真青なる・・・・・・・・・・・・・・高橋淡路女
キリギリス科の虫で体長は3.5センチほど。翅は腹部を包むようにたたむ。緑色で褐色の斑がある。
チョン、ギースを繰り返して鳴く。ギースチョンとも聞きなす。秋の半ばまで昼に鳴く。
翅脈は鋸の歯のようになっていて、こすりあわせて鳴く。
掲出の句は、キリギリスの様子を、巧みに捉えている。
平安時代から江戸時代まで「コオロギ」のことを「キリギリス」と呼んでいた、らしい。
つまり古今集時代から江戸時代まで、コオロギのことを「きりぎりす」と呼んでいたと言い、混同しやすいので留意したい。
芭蕉の句の「むざんやな甲の下のきりぎりす」というのも、もちろん「コオロギ」のことである。
以下、キリギリスを詠んだ句を引く。
スカートを敷寝の娘きりぎりす・・・・・・・・滝井孝作
一湾の潮しづもるきりぎりす・・・・・・・・山口誓子
きりぎりす時を刻みて限りなし・・・・・・・・中村草田男
泥濘におどろが影やきりぎりす・・・・・・・・芝不器男
わが胸の骨息づくやきりぎりす・・・・・・・・石田波郷
曲らむと鉄路かがやききりぎりす・・・・・・・・軽部烏頭子
崖下に道なし崖のきりぎりす・・・・・・・・山口波津女
きりぎりす生き身に欲しきこと填まる・・・・・・・・野沢節子
山の鉱泉に父の晩年きりぎりす・・・・・・・・高島茂
夜の底に泣く貌もてりきりぎりす・・・・・・・・辛島睦子
きりぎりす生あるかぎり紅をさす・・・・・・・・久米富美子
きりぎりす胸に組まれる死者の指・・・・・・・・大井雅人
きりぎりすチョンを忘るるときもあり・・・・・・・・岡本無漏子
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引用した一番はじめの句の「敷寝」の意味が判る人も少なくなっただろう。
女子学生が制服のスカートのヒダを、夜、蒲団の下にキチンと整えて寝ている間にヒダをきれいに圧し直すことをいう。
今ではベッドで寝る人が殆どであり、こういう光景には、お目にかかれないと思われる。
因みに、この作者の滝井孝作は小説家として有名な人。
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