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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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原田亘子詩集『忘れてきた風の街』・・・・・・・・・・・木村草弥
原田

──新・読書ノート──

     原田亘子詩集『忘れてきた風の街』・・・・・・・・・・・木村草弥
               ・・・・・・・空とぶキリン社2013/05/01刊・・・・・・・・

初見の原田亘子(はらだ のぶこ)さんから、この詩集が恵送されてきた。
「空とぶキリン社」というのは、先に紹介したことのある詩人の高階杞一氏が発行する出版社である。
図版でわかるようにメルヘンチックな装丁は浜野史子さんのものである。

原田さんは、こういう人である。
1953年 秋田県能代市生まれ
既刊詩集 『天のかざぐるま』(書肆とい)1993年

私あての私信には、吉原幸子が先師であるという。
先に私がブログに載せた記事もお読みいただいたそうで、読後感も書いて来られた。
そして、この詩集の「あとがき」には、こう書いてある。

     あとがき
一冊目の詩集を出してから二十年がたってしまいました。この歳
月に起きた自分や周囲のこと、日本のことを、今しずかに思ってい
ます。
私がパ二ック障害を患ってから二十年ほどになります。時には心
が折れそうになって、たまに詩の一片が肩に降りてきてくれても
私のささやかな呟きにしておこうと思っていました。
二〇一一年三月十一日。震災による大きな被害とそれに続く原発
事故。呟きにしておこうとしていた私の中で何かが動き出した頃、
高階杞ーさんの二冊の詩集に出会えたのです。『空への質問』と『早
く家へ帰りたい』。光明でした。
その高階さんのもとで二冊めの詩集を編むことができた不思議さ
に、深く深く感謝しています。
この二十年間の詩を読みかえすと、私が書き綴ったというよりは、
詩の中の主人公や、その陰にいる人たちの存在こそが(私の表現力
が拙くて申し訳ないのですが)、生み出してくれていたのだ、と気づ
かされました。
そして、詩の恩師と私が胸のうちで心から尊敬する方々からの教
えや励まし、苦しい時に支えてくれた友人、家族にも心から感謝。
宮城県南三陸町の詩人・須藤洋平さんの存在も、困難な中にあって
書き続けることの光を私に与え続けてくれました。
皆様、ほんとうにありがとうございました。
     二〇一三年一月 雪の激しく降りつむ日に
                   原田亘子
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本が出たばかりであり、ネット上にまだ批評などは出ていないが、私の目に止まったのは下記のようなものである。

はたち よしこ「レモンの車輪からの旅」に次のような紹介がある。

2013年05月11日

風の掲示板9

原田亘子詩集『忘れてきた風の街』(空とぶキリン社)
5月1日の新刊。一生のうち、だれもがこんなことを思い、思い出し見つめたことがあるはず、
1編ずつに共感し、やさしい風に吹かれていく詩集です。

     麦わら帽子    原田亘子

   夏のおわり
   森の入り口に
   麦わら帽子が
   おちている

   夏の森に
   さよならするみたいに

   思いっきり
   いい夏だった
   少し色あせた帽子のつばが
   言っている
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この詩集には「忘れてきた風の街」という言葉そのものの詩はない。 この詩集一篇を形作るものと私の考える詩を五篇引いておく。

     田打ち桜・・・・・・・・・・・原田亘子

     夕ウチザクラ──

   車窓のむこうを見つめて友人が言った
   北国の山あいの村から
   二両編成のディ—ゼルカ—が
   ひろびろとした田園風景はに出た瞬間だった

   その方向を見やると
   たった一本
   辛夷の花が
   まだ雪どけ水の匂いが残るような風に
   ゆれていた

   田打ち桜
   はじめて耳にする言葉だった
    田打ちの農作業が始まる頃に咲く花だから──
   農家に生まれ育ったその人が
   温かい水のような声でおしえてくれる

   霞むようにしか見えない田んぼの中で
   たった一本
   春のおとずれを告げる鐘の音のように
   辛夷の樹は立っている

   純白の手のひらをそっとあわせて
   天空を見つめて
   咲いている

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     見知らぬ街・・・・・・・・・・原田亘子

   バスを乗りまちがえて
   見知らぬ街に降り立ったことがある
   それから数年後その街の住人になった
   不思議なことがあるものだと思った
   私はその街で
   明け方さくさくと仲びる稲の伸びる音を聞いた
   淋しい人の肩に降りつもる言葉の
   切れ端も聞いた
   一人寝る枕の下を吹いてゆく風の音を
   聞いた夜もある
   見知らぬ街は
   私を人として步き出させるために
   見えない腕で
   引き寄せてくれたのだろうか
   その街に降る淡雪は
   かすかに辛夷の匂いがした
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       風・・・・・・・・・・原田亘子

   茫茫たる大地の
   背中

   遠くに 一軒の
   廃屋(シンメトリ—の大きな館)

   描かれているのは
   風

   樹も草も人も
   キャンバスの中にはいないのだが
   無数に砑する かってここに在った
   樹の 草の 花の 人の 音

   風だけがその横っ腹に刻みつけて
   何処かへつれてゆく

          (原光子作「風の方向」によせて)

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       少女・・・・・・・・・原田亘子

   ラ・メールの集いの帰りぎわ
   ──今度 ゆっくり揉ませていただきます
   失礼もかえりみず肩にふれて
   思わず言ってしまった

   飛び疲れて
   精も根も尽き果てた鳥
   のように見えた

   驚いたようにふりかえって
   わたしの顔を見た
    (仰ぎ見る対象でしかなかった)
   「吉原幸子」が
   わたしの顔を見上げた

   わたしはあの時の吉原先生の顔を
   生涯忘れない
   カミーユ・クローデルの
   不安げに空を見上げる少女の首が
   そこに在った
   片手にビ—ルのグラスを持って

   飲まずにはいられなかったのだろうか
   まだ少女なのに……
   ぬくもりのいっとう欲しい
   少女なのに

   ついに肩を揉んであげることは
   叶わなかったけれど
   あの日 目にした
   月光に晒される少女の瞳は
   わたしの胸底深く沈んで
   侵しがたくまどろんでいる
   人が生きることの
   切なさと
   神々しさを湛えて

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      忘れてきたもの・・・・・・・・・原田亘子

   何かを忘れてきた   
   でも思い出せない
   遠い日に
   忘れてきたもの

   約束の時間に行けなかったこと
   今でも返せずにいる本
   出さなかった手紙の返事
   たくさんのことを
   置き忘れてきた

   若い曰に
   言いたくても言えなかったこと
   言い返せなかった一言(もあった)
   聞きたくても聞けなかった
   恋人の本音

   ああ 何だったけ
   言いそびれてしまった ありがとう
   ごめんなさいの言葉
   もう会うこともなくなった人たちの
   顔やしぐさが
   思い出の箱の中から飛び出してきては
   消えてゆく

   そうだ
   わたしは わたしを
   忘れてきていた
   何がほしいのかわからず
   迷子の顔をして歩く
   十九歳のわたしを

   どの道をすすんでゆけばいいのか
   わからず
   心細げに立ち竦む赤いミニスカートの女の子を
   置き去りにしてきたのだ
   国分寺駅の
   南口駅前に
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原田さんが高階杞一さんの詩誌に入られたのは、よかった。
高階さんの詩作りと共鳴するものがあるからである。
ここに引用した詩については、敢えて批評はしないが、引くことが、もうすでに一つの批評であると理解してほしい。
詩などの本文はスキャナで取り込んだので、どうしても「文字化け」が生じる。子細に修正したが、まだあれば指摘してください。 すぐに直します。

佳い詩集をいただいて、ほのぼのとした気持で居る今日の午後である。 ご恵送に感謝して筆を置く。 (2013/05/19 記)


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