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K-SOHYA POEM BLOG
私のBLOGは詩歌句の「短詩形」文芸に特化して編集している。 今はもう無くなったが、朝日新聞の大岡信「折々のうた」などの体裁を参考にして少し長めの記事を書いている。自作も多めに採り上げている。
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山本兼一『花鳥の夢』・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
山本

──新・読書ノート──

     山本兼一『花鳥の夢』・・・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
                    ・・・・・・・・文芸春秋社2013/04/25刊・・・・・・・・・

華やかで大胆な構図、草花や鳥など繊細な筆致、天才と謳われた狩野永徳。
京都中の寺社、公家や宮家の注文を一手に引き受ける名門・狩野派の若棟梁として産まれ、幼いころから祖父の薫陶を受け将来を嘱望されてきた、いわばサラブレッド。
なんの後ろ盾もなく能登からでてきて筆一本で世に出た長谷川等伯とは、まったく住む世界が違う。
だれもが知っているビッグネーム、経済的安定、画材や下絵資料の蓄積など恵まれた環境ではあるが、周囲の期待、うまく描いて当然、そして多くの門人を育て養わなければならない重責。
なにより、自分の才能を恃む自負心とさらなる高みを目指す渇望が、逆に自らを追い込んでいく。
等伯の、ためらいのない筆勢、斬新でおおらかな画風に、自分にない才能と自由さを敏感に嗅ぎ取り、狂おしいほど嫉妬する永徳。
いわば、鏡の裏表、逆転の世界。

永徳と違い、等伯は世に出るまでの経歴が記録として残っていないらしく、安部龍太郎『等伯』も本作も、作家が自由に想像し、創作したようだ。
その点では、どっちも大いなる虚構ではあるが、『等伯』は本人や家族に重きをおき、本作は、天才画家永徳の創作の苦しみと物狂い、ライバルへの嫉妬心にフォーカスをあてている。
そういった生き方の違いからくる画風の違いも、面白い。
見る人を圧倒させる迫力のかわりに、のびやかさやゆとりのなさ、という永徳の特徴も納得できる。
偶然ではあろうが、ほぼ同時期に、ライバルである永徳と等伯を、それぞれの立場から描いた小説がでたというのも、面白い。

次に、ネット上に載る記事を引いておく。
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     芸術家の迸(ほとばし)りと、棟梁として守るべきこと――
     天才絵師・狩野永徳の歓喜と身悶えを描く。


   『花鳥の夢』 (山本兼一 著)      聞き手「本の話」編集部

――本作では狩野派を率い、「洛中洛外図」「四季花鳥図」「檜図」などを描いた天才絵師・狩野永徳の生涯が描かれます。
今回永徳のことを書こうと思われたきっかけは何だったのでしょうか。

山本 僕は赤ん坊の頃からしばしば大徳寺の聚光院に連れていかれていて、そこの本堂に永徳の「四季花鳥図」があったんです。
だから物心がついて1番初めに見た襖絵が永徳で、そのものすごい存在感をずっと覚えていました。
後になって、ある画家の方から永徳の絵のすごさをこう教えられました。「奥行きのある絵を描ける絵描きはそれなりにいるけれど、前に出てくる絵を描ける人間は少ない」と。
「四季花鳥図」はまさに「前に出てくる」絵で、襖の右側から正面に向かって描かれる梅の枝が、ほんとうに前に出てくるように見える。永徳はすごいと、あらためて思いましたね。

――「ものすごい存在感」の理由がわかったわけですね。

山本 はい。数年前の永徳展で初めて見た「檜図」でも、池の水は奥に沈む感じがあるのに、檜じたいは明らかに前に迫ってくる。やはり天才性を感じさせる強い絵でした。
でもほんとうに永徳のことを書きたいと思ったのは、永徳が19の時に描いたとされる、新発見の「花鳥図」(「四季花鳥図」とは別の物)を見たことからです。

――その「花鳥図」はどのような絵なのですか。

山本 若描きだからちょっと鳥の描写が固くて、正直そんなに達者な筆ではありません(笑)。
でも描くことが楽しいということがとても強く伝わってくる絵で、僕はものすごくいいと思いました。
でも永徳の絵は、この「花鳥図」のように描いていて楽しそうなものばかりではなく、明らかに苦悶の中で描かれたものもある――もちろんそれは僕が推測したことですが、なぜ永徳の絵には「楽しそうなもの」と「苦悶」があるのか。その疑問を持ったことが、この物語を書きたいと思った大きなきっかけです。

――永徳は若くしてその才能を開花させ、父親である松栄の技量を追い抜きます。
やがて狩野派の棟梁にもなるわけですが、自分がほんとうに描きたいことと、狩野派の棟梁として守っていかねばならぬこととの葛藤が常にありますね。

山本 その葛藤が永徳の一番の悩みだったと思います。
ほんとうは自分自身を発露させる絵を自由に描きたいけれど、狩野派の棟梁としては「端正」という画風をあくまで守らなければならない。
すべての絵を自分ひとりで手掛けたいけれど、安土城、大坂城、聚楽第などの壮大な御殿の装飾などの場合は、狩野一門での作業をせねばならない。
下手な弟子に任せざるをえない場合も当然あったはずです。
芸術性を迸(ほとばしら)せることと工房を監督・運営することの間で、永徳にはフラストレーションがたまり、大きなストレスに苛まれたのではないのか、と僕は想像しました。

――物語の中で永徳は長谷川信春(等伯)を狩野派から破門し、後には等伯の仕事の妨害までします。

山本 永徳は誰よりも等伯の技量を理解でき、それゆえにその才能に激しく嫉妬したと思います。
永徳にしか描けない線はもちろんあるけれど、能登時代に等伯が描いたような繊細な仏画は、永徳には描くことができない。その嫉妬と煩悶がとても大きかったと思います。

この物語を書く前は、映画の「アマデウス」になぞらえれば、永徳が天才的なモーツァルトで、等伯が凡庸なサリエリだと思っていたのですが、書き始めてみると、それが逆であることに気付きました。等伯は「松林図」を描く前に、すでに天才的な仏画を描いていた。永徳も天才ではあるけれど、狩野派の棟梁として凡庸な絵もあえて多く世に送り出さなければいけなかった。その運命は、まったく正反対です。

――物語のラストシーンで永徳は、これまで積み重なった抑圧や懊悩を解き放つようにして、いっしんに絵を描きます。 絵を描く「業」がそのまま表れているようで、圧倒的でした。

山本 結局僕は天才絵師・狩野永徳の身悶えが書きたかったんですね。絵師として、どうすればほんとうに自分が満足できる絵を描くことができるのか、という葛藤を。
僕はこれまで職人の事を描くことが多かったのですが、職人の場合は、自己を表現することより、技術や製品の質のことに重きがおかれます。
今回は職人ではなく、芸術家としての永徳、その人物像と内面を描くことに重きを置いた新しい試みをしました。
狩野永徳のことを書きましたが、さまざまな芸術家の自己表現を探る試みは、これからもやってみたいと考えています。
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img_4d60feef47f7ee36ea653a5c846be8b237258山本兼一
山本 兼一(やまもと けんいち, 1956年7月23日~ )は、京都市生まれの小説家。
京都市立紫野高等学校、同志社大学文学部美学芸術学専攻卒。
出版社、編集プロダクション勤務、フリーライターを経て作家デビュー。

1999年 「弾正の鷹」で小説NON創刊150号記念短編時代小説賞佳作
2002年 「戦国秘録 白鷹伝」でデビュー
2004年 「火天の城」で第11回松本清張賞受賞
2005年 「火天の城」で第132回直木三十五賞候補
2008年 「千両花嫁」で第139回直木三十五賞候補
2009年 「利休にたずねよ」で第140回直木三十五賞受賞
2009年 「火天の城」映画化

著書
『今は「最高」かカリスマ福永法源と「最高」教団 』砧書房(1987)
『戦国秘録 白鷹伝』祥伝社(2002)のち文庫(2007)
『火天の城』文藝春秋(2004)のち文庫(2007)
『雷神の筒』集英社(2006)のち文庫(2009)
『いっしん虎徹』文藝春秋(2007)のち文庫(2009)
『弾正の鷹』祥伝社(2007)のち文庫(2009)
『千両花嫁 とびきり屋見立て帖』文藝春秋(2008)
『狂い咲き正宗 刀剣商ちょうじ屋光三郎』講談社(2008)
『利休にたずねよ』PHP研究所(2008)
『ジパング島発見記』集英社(2009)
『命もいらず名もいらず』NHK出版(2010)

コメント
コメント
狩野永徳が手掛けた作品はあまり残っていないので残念です。
先日狩野永徳と長谷川等伯をテーマにした番組を観ました。永徳は時の権力者からの受注で作品を手がけることが多かったので、権力者が失墜すると作品も消失することが多いから、という解説でした。
まさに栄枯盛衰だと思いました。
2013/07/06(土) 23:01:05 | URL | デュエット #yq/XTcbA [ 編集 ]
コメント有難うございます
■デユエットさま。
お早うございます。
老人は早く目覚めるので、もう起きています。
ご来訪と、コメント有難うございます。
よく読んでくださいました。
本を読んで、記事にしたものの狩野永徳には詳しくありません。
狩野派は御用絵師だという先入観があるせいでしょう。
小説だから気軽に読めました。
では、また。
2013/07/07(日) 04:53:40 | URL | sohya #- [ 編集 ]
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