
──村島典子の歌──(17)
村島典子の歌『マザーレイク』32首・・・・・・・・・・・・・・木村草弥
・・・・・「晶」84号2013/12所載・・・・・・
マザーレイク 村島典子
*七月十二日卨橋たか子死去
わたくしの夢想そだてしかの人は神に召されたり炎暑の夜明け
誰よりも厳しき視線神まさばかの人のごとしとある日は思ひき
青ぶだう紫ぶだう水晶のごときしづけさ死者のいきざし
ふるさとの墓原の辺のぶだう棚に眸をあけよ懐かしき人
樟も篠懸けの木も百合樹もただあをあをと真夏の大地
白桃を食めばおもほゆあしひきの山の泉に守りしやまびと
この夏の庭の食客緑金の胴かがやかすオハグ口トンボ
とんぼとんぼ少女のうしろ歩くときわたしは厶カシトンボなりにき
わが少女糸をあやつり老犬の毛を小さなるクッションにせり
ヒロシマハ行キタクナイと少年の言へりォキナハのわたしのうまご
戦争ノ話ハシナイデと二度言ひき集団自決の島ゆ来りて
火焰茸触るれば火傷するといふ注意書くぬぎに捲かれてありぬ
ああ夏は炎を噴くか蝉さへも沈黙したり息を詰めをり
公園の奧ふかくきて仰ぎをり檪の半身枯れてありけり
キクヒムシの退治なさむと吊るされしぺットボトルの透明の首
媚薬もとめ下りゆきたるキクヒムシ根方の壜の酒に溺るるか
猛烈な雨の来りてにんげんのつつましき暮し打ちに打ちたり
暴風雨そは友にあらず家を揺り庭木々を揺り山さへも揺る
ふるさとの墓原の川あふれけり一門の墓水漬きたりけり
秋彼岸の交野のやまの裾の川あふれあふれてみ墓をあらふ
此岸にも曼珠沙華咲き川の辺にしばし佇むわれはひとりに
*台風十八号がすぎし翌钥、瀬田唐橋を訪ぬ。春、唐茶色に新装されしを。
瀬田川は汚れよごれて流れたり右岸左岸の道をあふれて
唐茶色といふを悉に見むとして勢多の唐橋にけふは来れり
唐茶色は黄土いろなり濁流のあふるる今朝の川のいろなり
まんまんと水を湛へて苦しめる琵琶湖なりけり放流をせず
動脈となりて下れる増水の瀬田川、洗堰にて留められたり
放水を止められし湖よ宇治川の氾濫ふせぐと支流をあふる
大きなる胎と思へりささなみの志賀のみづうみ破水せりけり
まんまんの水漲りし胎なれば見よみづうみの苦しめるさま
マザーレイク空を映せり近江のうみ昏き器と歌はれし日の
「全歌集」より気の立ちのぼりたちまちに野分のあとの湖のゆふぐれ
* 『前登志夫前歌集』
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村島典子さんから季刊誌「晶」が届いたので、ご紹介する。
いつもながらの村島さんの見事な詠いぶりである。
沖縄に住む孫さんの言動。
琵琶湖のほとりのお住まいのめぐりの草木虫魚の佇まい。
集中豪雨をもたらし、京都・滋賀の両県に多大の被害を与えた台風十八号のこと。
などを「マザー・レイク」と題して32首の作品として昇華された。
その力量に瞠目したい。 ご恵贈に感謝する。
原文はスキャナで取り込んだので、いくつかの「文字化け」が生じる。子細に修正したが、まだあれば指摘してください。すぐに直します。 よろしく。
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