
春の雪──京都嵐山にて・・・・・・・・・・・・・・中原道夫
行きずりのその店の
それは女将であったか
仲居であったか
女の笑顔が
桜色の着物によく映えた
迷ったあげくのことであったが
ぼくはこの店を選んだことが嬉しかった
──どうぞ、お茶を
一口、志野焼きの湯飲みに口をつけたものの
料理ができるまで少々時間がかかるらしい
──ちょっと、用を足してきますから
──そちらの奥どすが
指差す桜色の襟元が旅情をひとしおかきたてた
──お戻りやしたか
席にもどるぼくに新しい茶を出す女の手は美しかった
──今日は、よう冷えますので、熱いのを
ぼくはこの店を選んだことがふたたび嬉しかった
──料理もおいしくいただけたけれど、
お茶がとてもおいしくて
京女に東男というけれど
ぼくはこの店を選んだことがまたまた嬉しかった
格子戸を開けると外は雪
桜色がよく映えた
(北溟社刊『滋賀・京都 詩歌紀行』より)
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写真は「花灯路」という行事の時の嵐山・渡月橋である。
京都は観光地として根強い人気があり、私の首都圏に住む知人など、折にふれて一年に何度も京都に通っている。
そんな中では「冬」はオフシーズンではあるが、「通」の人には、この冬場こそ京都観光の穴場なのだという。
オン・シーズンの時は観光客で混んでしまって、ゆっくりすることも出来ないが、冬なら、ゆつくり見て歩くことが出来よう。
平素は公開しない所も、冬場に公開されることもあり、それが「穴場」と称される所以である。
お試しあれ。
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