
椎落花煩悩匂ふ無尽かな・・・・・・・・・・・・・・・川端茅舎
椎(しい)の花は5、6月になると、深緑色の葉に混じって、強い甘い香りのする淡黄色の雄花が穂状に開く。
スダジイとツブラジイがあり、スダジイの実は円錐形、ツブラジイの実は球形と、やや違うが、共にブナ科の常緑喬木、20メートルから25メートルにも達する。
暖地の木である。雌雄同株で虫媒花だが、雄しべが花粉を撒くと、穂ごと雄花は落ちる。
強い匂いで、酔うような異様な雰囲気になる。美しい花ではないが、セクシーな、活力のある空気を生み出す。
だから、掲出した川端茅舎の句でも「煩悩匂ふ無尽」と表現している。
しかも時期としては「落花」を詠んでいるのである。
私の歌にも歌集『嬬恋』(角川書店)所載
饐(す)ゆるごとく椎の花咲き斎庭(ゆには)なる仁王の像は固く口つぐむ・・・・・・・・・・・・木村草弥
というのがあるが、掲出した句の方が佳いと思って、この句を掲げる。
俳句にも多くの椎の花の句があるが、総じて上に述べたような句境のものが多い。それを引いて終わる。
旅人のこころにも似よ椎の花・・・・・・・・松尾芭蕉
尾長どり巣かけし椎は花匂ふ・・・・・・・・水原秋桜子
椎咲くや恋芽ぐみゐる英語塾・・・・・・・・野村喜舟
杜に入る一歩に椎の花匂ふ・・・・・・・・山口誓子
椎の花こぼれて水の暗さかな・・・・・・・・増田手古奈
椎匂ふ夜を充ち充ちて書きゐたり・・・・・・・・大野林火
椎咲きてわが年輪のほのぐらき・・・・・・・・松村蒼石
下品下生の仏親しや椎の花・・・・・・・・滝春一
椎にほふ未定稿抱き眠る夜も・・・・・・・・能村登四郎
言葉のあと花椎の香の満ちてくる・・・・・・・・橋本多佳子
椎咲いて猫のごとくに尼老いぬ・・・・・・・・河野静雲
花椎の下照る径や子を賜へ・・・・・・・・星野麦丘人
遠目にはもゆる色なり椎の花・・・・・・・・松藤夏山
教師みなどこか疲るる椎の花・・・・・・・・上野波翠
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